「HTTP/2にしたら速くなるはず」「HTTP/3なら遅延が消える」 ── 実務では、このような誤解が非常に多く見られます。
HTTP/2・HTTP/3は万能な高速化技術ではありません。 TTFBに効くケース/効かないケース、 スループットが改善する条件を理解していないと、 導入しても「体感が変わらない」結果になります。
本記事では、
- HTTP/1.1・HTTP/2・HTTP/3 の違い
- TTFB・スループットにどう影響するのか
- 実務で効果が出る/出ない判断基準
- 導入時の落とし穴
をネットワーク視点で徹底解説します。
目次
まず結論:HTTP/2・HTTP/3が効くのは「条件付き」
| 項目 | HTTP/2 | HTTP/3 |
|---|---|---|
| TTFB改善 | △(条件付き) | ◯(特に高遅延環境) |
| スループット改善 | ◯ | ◯ |
| パケットロス耐性 | △ | ◎ |
「TTFBが遅い=HTTP/2にすれば解決」ではありません。
HTTP/1.1が抱える本質的な問題
① コネクション数依存
HTTP/1.1では、ブラウザは複数リソース取得のために 複数TCPコネクションを張ります。
- TCPハンドシェイク
- TLSハンドシェイク
これがTTFBを押し上げる要因になります。
② Head-of-Line Blocking(HOL)
1つのレスポンスが遅れると、 後続リクエストも詰まります。
結果として、
- スループットが出ない
- 体感が悪化
HTTP/2の仕組みとTTFB・スループットへの影響
HTTP/2の核心:多重化(Multiplexing)
HTTP/2では、 1つのTCPコネクション上で複数リクエストを並行処理します。
TCP Connection ├─ Stream 1 ├─ Stream 2 ├─ Stream 3
TTFBへの影響
- TCP/TLS接続回数が減る
- → 初回TTFBは改善する可能性あり
ただし、
- DNSが遅い
- サーバ初期処理が重い
場合はほぼ効果なしです。
スループットへの影響
- HOL Blockingが大幅に軽減
- 帯域を効率よく使える
→ 多数の画像・JSがあるページでは体感改善しやすい
HTTP/2の限界:TCPという足枷
HTTP/2はTCP上で動作します。
そのため、
- TCPレベルのパケットロス
- 輻輳制御による速度低下
が発生すると、全ストリームが巻き添えになります。
これが次世代の HTTP/3 が生まれた理由です。
HTTP/3の仕組みと革命的な違い
HTTP/3 = QUIC + HTTP
HTTP/3は、
- TCPを使わない
- UDPベースのQUICを使用
という根本的な違いがあります。
TTFBへの影響
- TCPハンドシェイク不要
- TLS 1.3を統合
→ 特に高遅延・モバイル環境でTTFBが劇的に改善します。
スループットへの影響
- ストリーム単位で独立
- 一部ロスしても他に影響しない
→ 不安定な回線ほど効果大
実務での判断基準(重要)
HTTP/2が向いているケース
- 社内LAN
- 安定したWAN
- 画像・JSが多いWeb
HTTP/3が真価を発揮するケース
- モバイル回線
- 海外アクセス
- パケットロスが発生しやすい環境
導入時の落とし穴(非常に重要)
① FW・プロキシでUDPが遮断される
HTTP/3はUDP/443を使用します。
② 可視化・監視が難しい
従来のTCPキャプチャ手法が使えません。
③ 全クライアントが対応しているわけではない
実務向けまとめ
- HTTP/2はスループット改善に強い
- HTTP/3はTTFBと不安定回線に強い
- TTFBが遅い原因を誤診しないことが最重要
- NW・DNS・Serverを理解した上で導入判断する
「速そうだから導入」ではなく、 「どこが遅いかを理解して選ぶ」 これが実務で失敗しない最大のポイントです。
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