拠点間VPN・データセンター接続・クラウド接続など、企業ネットワークの設計で必ず必要になるのが「WAN回線帯域の見積もり」です。
しかし、実務の現場では次のような悩みが頻発します。
- どのように帯域を計算すればよいかわからない
- 利用者数から何Mbps必要なのか目安が欲しい
- アプリごとの帯域負荷をどう積算するべきか
- 既存回線が遅い場合、増速の判断基準が知りたい
本記事では、WAN帯域設計の実務で使われる 最適な帯域見積もり方法・基準値・計算手順 を体系的にまとめます。
目次
■ 1. WAN帯域の見積もりは「ユーザ数 × アプリ帯域 × 同時利用率」
WAN回線の帯域は次の式で概算できます。
必要帯域 = Σ(アプリごとの帯域 × 同時利用率 × 利用ユーザ数)
実務ではこの式をアプリ単位で積算していきます。
■ 2. アプリ別の代表的な帯域量(実務基準目安)
| アプリ種別 | 1ユーザ平均帯域の目安 |
|---|---|
| Web閲覧(HTTP/HTTPS) | 0.1〜0.3 Mbps |
| SaaS(Teams/SharePoint/Slackなど) | 0.2〜0.5 Mbps |
| Office365 Outlook(メール) | 0.05〜0.1 Mbps |
| Teams / Zoom 音声 | 0.1〜0.2 Mbps |
| Teams / Zoom ビデオ(HD) | 1.2〜1.5 Mbps |
| VDI(RDP/PCoIP) | 0.5〜2.0 Mbps |
| ファイル共有・NASアクセス | 変動大(0.5〜数Mbps) |
| 大容量転送(バックアップ等) | 10Mbps〜必要に応じて |
■ 3. 同時利用率(Concurrency Ratio)の目安
全ユーザが常に最大通信をするわけではないため、同時利用率を加味します。
| 利用シーン | 同時利用率の目安 |
|---|---|
| Webアクセス中心 | 10〜20% |
| SaaS利用が多い | 20〜30% |
| VDI(常時接続) | 80〜100% |
| ビデオ会議中心 | 30〜50% |
■ 4. 【例題】社員100名オフィスの必要帯域を計算する
以下の想定で試算します。
- 利用者:100名
- 主アプリ:Web閲覧 + Teams ビデオ会議
- Webの同時利用率:20%
- Teamsビデオの同時利用率:10%
● Step 1:Web帯域の計算
0.3 Mbps × 100人 × 0.2 = 6 Mbps
● Step 2:動画会議の計算
1.5 Mbps × 100人 × 0.1 = 15 Mbps
● Step 3:合計帯域
必要帯域 = 6 Mbps + 15 Mbps = 21 Mbps
実務では余裕を見て「×1.3〜1.5」を掛けます。
21 Mbps × 1.5 = 31.5 Mbps
→ 実際には 50Mbps 回線を選定するのが妥当
(上り下り対称なら 50Mbps / 50Mbps)
■ 5. 利用者数から逆算する「簡易目安」
企業ネットワークの実務では、次の式でおおよそ妥当な帯域に収まります。
Web中心:人数 × 0.2〜0.5 Mbps
SaaS中心:人数 × 0.5〜1 Mbps
ビデオ会議中心:人数 × 1〜2 Mbps
VDI利用:人数 × 1〜3 Mbps
例:社員50名のWeb中心拠点 → 50 × 0.3Mbps = 15Mbps → 実際には 30〜50Mbps 回線が妥当
■ 6. WANが遅い時の「増速判断基準」
以下のどれかに該当したら帯域不足の可能性が高いです。
- 回線使用率が 70% を超える時間帯が連続する
- 動画会議で品質低下(遅延/音切れ)が頻発
- クラウド(Teams/SharePoint)が重い
- ファイル転送が遅い
- 利用者数の増加(VDI新規導入など)
特に動画・VDIが増えると帯域はすぐ枯渇します。
■ 7. 回線の種類ごとの選定目安
| 回線種別 | 特徴 | 選定の目安 |
|---|---|---|
| 光回線(ベストエフォート) | 安価だが帯域が変動しやすい | 小規模拠点(〜50名)に最適 |
| 専用線(帯域保証) | 品質が高く遅延も安定 | 中〜大規模(50名〜)、VDI集中利用 |
| クラウド直結回線(Azure/AWS Direct Connect) | DC〜クラウド間の最速経路 | クラウド中心のシステム構成 |
■ 8. まとめ:WAN帯域設計は「積算+利用率+余裕」で決まる
WAN帯域の適切な見積もりは、次の3要素の掛け合わせで行います。
- アプリごとの帯域×ユーザ数の積算
- 同時利用率を加味
- 余裕 30〜50% を持たせる
あわせて読みたい


SD-WANの仕組みとメリット【従来WANとの比較・導入判断ポイント】
企業ネットワークで SD-WAN を導入するケースが急速に増えています。従来の WAN(IP-VPN / 専用線)から SD-WAN へ移行することで、運用効率・セキュリティ・コスト最適…
