STP(Spanning Tree Protocol)はループ防止の重要な仕組みですが、トポロジ変動が起こると STP再計算 が発生し、一時的な通信断が発生することがあります。本記事では、STP再計算による影響と、それを防ぐための設定・設計の見直しポイントを実務レベルで解説します。
■ STP再計算が発生すると何が起きる?
STP再計算中は、スイッチがポートの役割を見直し、BPDU交換を行うため、以下の影響が発生します。
- 2~30秒前後の通信断(STP方式により異なる)
- VLAN間通信やL3スイッチ経由の通信が断続的に停止
- ARP解決不可・NAT不可などの副次的障害
- IP電話・無線APなどの瞬断
特に STP を RPVST+ や PVST+ で運用している環境では、変更が VLAN 単位で発生するため障害が大きくなりがちです。
■ STP再計算が発生する典型的な原因
- アクセススイッチに誤ってループ接続が発生
- BPDUフィルタ/BPDUガードの未設定により不正機器がBPDUを送信
- 根Bridgeの流動化(意図しないスイッチがRootに)
- リンクダウン/フラッピング
- 中継器(安価なHUB)や無線APが BPDU を遮断 or 送信
- 機器交換時のポートの設定移行漏れ
■ 初動対応(必ず最初に見るポイント)
● 1. STPログにトポロジ変動が出ていないか
show spanning-tree detail | include topology
● 例(トポロジ変更が発生):
Number of topology changes 52 last change occurred 00:00:13 ago
→ 直近で頻発している場合、STP再計算による通信断の可能性大。
● 2. どのポートが原因か確認
show spanning-tree vlan 10 detail
● 例:
Port Gi1/0/24 is flapping between forwarding and blocking
→ VLAN10 のSTP不安定化の原因ポートを特定。
● 3. エラーカウンタのチェック
show interface counters errors
● 例:
Gi1/0/24 Input errors: 152 CRC: 143 Frame: 9
→ 物理リンク不安定がSTP再計算を引き起こしている可能性。
■ STP再計算を防ぐための設定(実務で必須)
● 1. 上位スイッチへ Root Bridge を固定する
意図しないスイッチが Root にならないよう、コア or 配下のセンタースイッチに root 優先度を設定します。
spanning-tree vlan 1-4094 priority 4096
● 確認:
show spanning-tree root
● 2. アクセスポートには「PortFast」を必ず設定
PC・IP電話・プリンタなどが接続されるポートは、STP収束を高速化するため PortFast を付与。
interface range Gi1/0/1 - 48
spanning-tree portfast
● 3. BPDU Guard による誤接続対策
PortFast とセットで設定し、誤って L2 機器を接続したときに即座にブロック。
interface range Gi1/0/1 - 48
spanning-tree portfast
spanning-tree bpduguard enable
● 発動時のログ例:
%SPANTREE-2-BLOCK_BPDUGUARD: BPDU Guard blocking port Gi1/0/12
● 4. EtherChannel(LACP/PAgP)の正しい設定
ミス設定の EtherChannel は STP ロール変動の原因になります。
interface range Gi1/0/47 - 48
channel-group 1 mode active
● 5. リンク障害を防ぐための UDLD(光ファイバ環境で必須)
udld aggressive
→ 片方向リンクで STP 再計算が発生する事故を未然に防止
● 6. Root Guard で意図しない上位スイッチの乱入を防ぐ
interface Gi1/0/24
spanning-tree guard root
→ 誤接続で Root に書き換わる事故を防止。
■ 設計面で見直すべきポイント
● 1. STP方式の選定(推奨順)
- RSTP(802.1w):高速収束、実務で最も安定
- MSTP(802.1s):VLANをグルーピングして負荷分散
- PVST+ / RPVST+:VLAN単位の計算で負荷が重い
→ 新規構築では RSTP または MSTP が推奨。
● 2. 冗長配線のループリスクを最小化する設計
- L2 はアクセス層のみ、上位は L3 に分離する(L2縮小)
- STP の収束に依存しない構成(例:L3スイッチでルート化)
→ トポロジを L2 で「広く張りすぎない」ことが重要。
● 3. トラブル発生時にすぐ確認できる監視項目
- STP Topology Change Count
- STP role/port 状態
- リンクの Up/Down ログ
- MACフラッピング
→ これらが異常に増えていれば、STPが不安定なサイン。
■ 再発防止チェックリスト(まとめ)
- アクセスは PortFast+BPDU Guard を必ず有効化
- Root Bridge の位置を固定しておく
- UDLD(光)/Loop Guard(冗長リンク)を有効化
- VLAN設計を見直して L2を広げすぎない
- リンク品質(CRC・フラッピング)を定期監視
これらを実行することで、STP再計算による通信断は大幅に減らせます。
■ 最後に
STP再計算は、予期せぬ通信断の原因となる非常に厄介なトラブルです。しかし、本記事の設定と設計ガイドラインを適用するだけで、多くの現場障害を未然に防ぐことができます。



