ネットワーク冗長化設計の全パターン比較【L2/L3・VRRP/ECMP/STP】

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ネットワークの可用性を上げるための冗長化は、設計方針(L2中心かL3中心か)や規模、用途によって最適解が変わります。本記事は現場で判断・実装できるように、主要な冗長化方式を比較し、設計例・注意点・検証手順まで実務目線でまとめた決定版ガイドです。

目次

1.冗長化方式の全体像(まず把握すること)

主要方式を大分類すると次のとおりです。

  • L2 冗長化:STP / RSTP / MSTP、LACP(EtherChannel)
  • L3 ゲートウェイ冗長化:VRRP / HSRP / GLBP
  • L3 経路冗長化:ECMP(等コストマルチパス)+ルーティングプロトコル(OSPF/BGP)

短い結論: 新規構築・クラウド連携・データセンタでは L2 最小化 + L3(ECMP)主体 が現在のベストプラクティスです。

2.各方式の仕組みと特徴(メリット・デメリット)

2-1 STP / RSTP / MSTP(L2)

  • 仕組み:ループが無いようにブロッキングポートを作る。
  • メリット:シンプル、既存機器で利用可能。
  • デメリット:収束が遅い(STPは数秒〜数十秒)、冗長回線を完全活用できない。
  • 実務の注意点:PortFast/BPDU Guard等をアクセスポートに必須で設定。

2-2 LACP / EtherChannel(リンク集約)

  • 仕組み:複数物理リンクを束ね1論理リンクにする。
  • メリット:帯域増、片側障害は継続、STPブロックを回避しやすい。
  • デメリット:片側設定ミスで不整合(I 状態)や flapping を招く。
  • 設定要点:speed/duplex/VLAN をメンバ間で完全一致させる。

2-3 VRRP / HSRP / GLBP(L3ゲートウェイ)

  • 仕組み:仮想IPと仮想MACを使い、デフォルトゲートウェイを冗長化。
  • メリット:フェイルオーバが比較的速く運用が分かりやすい。
  • デメリット:アクティブ/スタンバイ方式ではリソースが片側に偏る(GLBPは回避可)。

2-4 ECMP(L3パス)+BGP/OSPF

  • 仕組み:等コストの複数ルートを同時使用して負荷分散と冗長化を実現。
  • メリット:アクティブ/アクティブ、スケール性高、収束が速い(BFD併用で即時)。
  • デメリット:ハッシュ偏りでフロー毎に偏ることがある。L3設計が必須。

3.方式比較(用途別)

方式収束速度負荷分散向く規模向く用途
STP(古典)遅い×小〜中レガシーL2、互換性重視
RSTP/MSTP×L2での高速収束が必要な環境
LACP高速部分的小〜大リンク冗長・帯域拡張
VRRP/HSRP中〜速×(GLBPは○)小〜中デフォルトGW冗長
ECMP + BGP/OSPF速(BFDで更に速い)中〜大データセンタ/クラウド連携/多拠点

4.実務での設計パターン(代表例と推奨)

パターン A:小規模オフィス(低コスト)

  • Access:L2スイッチ(PortFast,BPDU Guard)
  • Distribution:L3スイッチ with VRRP
  • Link:LACPで冗長化

理由:運用がシンプルで、既存機器で実現可能。

パターン B:中〜大規模(拠点)

  • Leaf-Spine(L3 Clos)構成
  • ECMP を軸に L3 で冗長化、BGP/OSPF で経路制御
  • 端末側は Access→L3 集約で STP 範囲を限定

理由:L2の影響範囲を小さくしてスケールと可用性を両立。

パターン C:データセンタ / クラウド接続

  • Leaf-Spine + ECMP、BGP ピアリング(内部 iBGP / 外部 eBGP)
  • BFD を併用して経路検出を高速化
  • サービス冗長は負荷分散とヘルスチェックで実施

5.設計時のチェックリスト(必ず確認する項目)

  • 目的(可用性 / 帯域 / 負荷分散)を優先順位化
  • L2 の範囲を必要最小限にする(ブロードキャストドメインを縮小)
  • 冗長化が障害を隠蔽しないよう監視(VRRP切替、BGP再収束)を用意
  • 収束時間要件を定義(音声なら <50ms を目標)
  • MRT(maintenance runbook)とフェイルオーバーテスト計画を作成

6.運用・設定の注意点(現場でよくある失敗)

よくある失敗例

  • LACP の speed/duplex/VLAN不一致による形成失敗
  • VRRP の priority や preempt 設定ミスで切替が遅れる・逆になる
  • STP Root が不意に変わる(Root priority 未設定)
  • ECMP のハッシュ設定でフローが偏る → 単一フローがボトルネックに

防止策(設定例)

!-- VRRP(Cisco系イメージ)
interface Vlan10
 ip address 10.10.10.2 255.255.255.0
 vrrp 10 ip 10.10.10.1
 vrrp 10 priority 120
 vrrp 10 preempt delay minimum 30
!-- LACP(Ciscoイメージ)
interface range Gi1/0/1 - 2
 channel-group 1 mode active
!-- BFD for fast failure detection (example)
router bgp 65000
 neighbor 10.0.0.2 remote-as 65000
 neighbor 10.0.0.2 fall-over bfd

7.検証(フェイルオーバーテスト)手順

設計した冗長化は必ず「切替テスト」で検証します。基本手順:

  1. テスト用時間帯と関係者周知を実施
  2. 事前に監視のしきい値・ログ収集を有効化
  3. 片側リンクを意図的に停止(ケーブル抜き / admin down)
  4. 影響範囲(接続数・パケットロス・遅延・アプリ影響)を観察
  5. ロールバック手順の確認(自動復旧と手動復旧)
  6. 結果を文書化し、問題があれば設計を修正
!-- テストで使うコマンド例
ping -f -l 1472 10.10.10.100    --(Windows Fragment test)
show ip route
show vrrp brief
show etherchannel summary
show ip bgp summary

8.移行ガイド(L2中心→L3(ECMP)へ)

既存のL2依存ネットワークをL3主導に移行する際のステップ(推奨順):

  1. 現状調査(VLAN数・ブロードキャスト量・依存サービス)
  2. 段階的にL3集約ポイントを設定(フロア単位→全社)
  3. アプリのIP/接続要件を確認(ブロードキャスト必須なものは除外)
  4. ECMP/ルーティングポリシー設計、BFD導入計画
  5. テスト → 本番段階的移行(スイッチバックプラン必須)

9.まとめ(設計選定の簡易フローチャート)

  • 要件が「小規模で低コスト」 → VRRP + LACP を推奨
  • 要件が「可用性とスケール」 → ECMP + L3(Leaf-Spine) を推奨
  • 要件が「レガシー維持」 → RSTP + LACP(ただし影響範囲を限定)

実務Tips:「設計は完璧より検証が重要」。小さな変更をステップでリリースし、フェイルオーバーテストを行ってください。

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