企業ネットワークでは、Web会議、IP電話、監視カメラなどのリアルタイム通信が増加し、通信品質を安定させる QoS(Quality of Service)の重要性が高まっています。QoS を正しく設計しないと、音声の遅延・映像の乱れ・通信切断など、業務に直結するトラブルにつながります。
この記事では、QoS の基本概念から、音声・映像通信を安定させるための最適な設計ポイント、Cisco 機器を例とした実装設定、さらに QoS が正常に動作しているかを判断するための検証手順まで、実務でそのまま使える形で解説します。
1. QoS が必要とされる理由
QoS は「帯域の不足」「遅延」「揺らぎ(ジッタ)」「パケットロス」によって通信品質が低下する環境を改善するために必要です。特に音声や映像はリアルタイム性が高いため、これらの影響を受けやすく、適切な QoS を設定しないと次の問題が発生します。
- 音声会議で音が途切れる・遅れて聞こえる
- 映像会議で画質が落ちる・カクつく
- SIP 通話が切断される
- 多数のトラフィックが同時に流れると VoIP が圧迫される
QoS を導入することで、これらの重要トラフィックをネットワーク上で優先制御でき、安定した通信を実現できます。
2. QoS 設計の基本方針
QoS は以下の 3 ステップで設計します。
- 分類(Classification) – トラフィックを識別
- マーキング(Marking) – DSCP や CoS を割り当てる
- キューイング / シェーピング(Queuing / Shaping) – 帯域制御を実施
特に重要なのは「正しく分類し、適切に優先制御する」ことです。誤った分類は QoS が正常に働かない原因になります。
3. 音声・映像通信で優先される QoS クラス
代表的な DSCP 値と用途は次の通りです。
| 通信種別 | DSCP | 理由・用途 |
|---|---|---|
| 音声(VoIP RTP) | EF (46) | もっとも遅延に敏感なため最優先 |
| 映像(ビデオ会議) | AF41〜43 | 音声ほどではないが高優先度が必要 |
| SIP / H.323 制御 | CS3 | コール制御のため優先 |
| 業務アプリ | AF21〜23 | 優先度中程度 |
| その他のデータ | BE | 通常トラフィック |
この分類は多くの企業ネットワークで標準的に利用されています。
4. QoS ポリシー設計のベストプラクティス
4-1. 音声は最低 30kbps x 回線数の帯域確保
G.711 では 80~100kbps 程度必要ですが、L2TPv3 や VPN over WAN などでは追加オーバーヘッドがかかるため、余裕をもって帯域を確保します。
4-2. 映像は 1~4Mbps の帯域を上限設定
Web 会議は帯域が読みにくいため、上限を定めて帯域圧迫を防ぎます。
4-3. TCP ではなく UDP を優先制御する
音声・映像はほぼ UDP のため、UDP を正しく識別することが重要です。
4-4. DSCP の書き換えはエッジ側(アクセススイッチ)で実施
ネットワークの端でマーキングし、コアはそのマーキングを尊重します。
4-5. WAN 回線ではシェーピングを利用する
通信事業者の帯域より少し低い値でシェーピングすると、パケットロスを減らせます。
5. Cisco 機器での QoS 設定例
5-1. 音声(EF)・映像(AF41)を分類してマーキング
class-map match-any VOICE
match ip dscp ef
class-map match-any VIDEO
match ip dscp af41
5-2. ポリシーで優先制御
policy-map QOS-POLICY
class VOICE
priority percent 20
class VIDEO
bandwidth percent 30
class class-default
fair-queue
5-3. インターフェースに適用
interface GigabitEthernet0/0
service-policy output QOS-POLICY
この構成により、音声は最優先キューに入り、映像も安定した帯域が確保されます。
6. QoS が動作しているかの検証方法
6-1. DSCP が正しく付与されているか確認
show policy-map interface gig0/0
パケットが正しいクラスに分類されているか確認します。
6-2. キューにドロップが発生していないか
show interface gig0/0 | include drop
ドロップが多い場合は帯域が不足しています。
6-3. 実際のリアルタイム通信でテスト
- オンライン会議を実施して遅延・画質を確認
- ping で RTT を確認(100ms以下が目安)
- 回線逼迫時に QoS が機能するかテスト
7. QoS 設計のよくある失敗と対策
7-1. DSCP を付けていない・書き換えている
→ 端末側かスイッチ側でマーキングを統一します。
7-2. 音声と映像を同じキューに入れてしまう
→ 特性が異なるため別クラスに分離します。
7-3. WAN 回線側の帯域設定が不正確
→ 実効帯域を測定し、少し低めでシェーピングします。
7-4. システム更新時に QoS が無効化されている
→ 構成チェックリストを作成し、変更時に再検証が必要です。
まとめ
QoS は「分類」「マーキング」「帯域制御」の 3 要素を正しく組み合わせることで効果を発揮します。特に音声・映像通信では、適切な DSCP による識別と、優先制御のためのキューイング設計が必要です。
今回紹介した Cisco 構成例や検証手順は、企業ネットワークにそのまま適用できる実務ベースの内容です。QoS を正しく設計・実装することで、業務中の Web 会議の品質が安定し、生産性向上につながります。
