QoS(Quality of Service)は、ネットワーク上の通信に優先順位をつけ、音声・映像・業務アプリなどの重要トラフィックを安定して流すための仕組みです。 しかし、設計や設定にミスがあると「逆に通信品質が悪化する」ケースも多く、運用現場でもQoSが原因のトラブルは頻発します。
この記事では、QoS設計のポイントから、実務で起こりやすいトラブル・原因・改善策までを体系的に解説します。
目次
■ QoSが必要となる典型的なユースケース
- IP電話(VoIP)の音声遅延・途切れ対策
- Web会議(Zoom、Teams)の品質確保
- 業務基幹システムの安定動作
- バックアップトラフィックの制御
- 夜間バッチ通信との帯域競合
特に VoIP / Web会議 は遅延・ジッタに弱く、QoS設計の中心に据えられることが多い分野です。
■ QoS設計の基本方針
QoSの設計では、まず以下の3ステップを明確にする必要があります。
① どの通信を優先するべきか(分類)
例:
- VoIP → 最優先(EF)
- Web会議 → 高優先(AF41)
- 業務システム → 中優先(AF21)
- バックアップ → 低優先(CS1)
② どの程度の帯域を確保するか(帯域保証)
一般的な設計例:
- VoIP:10〜15%
- Web会議:15〜20%
- 業務アプリ:20〜30%
- その他:残り(Best Effort)
③ 優先制御の適用ポイント(入口 or 途中 or 出口)
QoSは多くの場合「出口インターフェース」で施しますが、トラフィック量が多すぎる場合は入口シェーピングやWAN区間での制御も必要となります。
■ QoSの構成図イメージ
(※WordPress上でそのまま図として表示可能なプレーンHTMLです)
[LAN] --- (Switch) --- (Router: QoS適用) --- [WAN]
└─ VoIP
└─ Web会議
└─ 業務アプリ
■ CiscoルータでのQoS設定例
分類(class-map)
class-map match-any VOICE
match dscp ef
class-map match-any VIDEO
match dscp af41
class-map match-any BUSINESS
match dscp af21
ポリシー作成(policy-map)
policy-map QOS-POLICY
class VOICE
priority percent 10
class VIDEO
bandwidth percent 20
class BUSINESS
bandwidth percent 30
class class-default
fair-queue
インターフェースに適用
interface GigabitEthernet0/0
service-policy output QOS-POLICY
■ 実務で起きたQoSのトラブル事例と改善方法
◆ トラブル①:VoIPの音声品質が改善しない
原因:DSCPが上書きされており、EFで届いていなかった
よくあるミスの一例:
- 途中のL3SWが「trust dscp」をしていない
- SwitchのアクセスポートがデフォルトでDSCPを破棄
- PBX・IP電話の端末が正しいDSCPを設定していない
改善策:
- 端末〜コアスイッチまでDSCPを維持する設定を確認
- Accessポートでの CoS → DSCP の再マーキング設定
◆ トラブル②:夜間のバックアップがWAN帯域を圧迫して業務アプリが遅延
原因:バックアップトラフィックの制御がされていない
改善策:
- バックアップ用VLANを別class-mapで分類
- 帯域を「上限設定(policing)」する
class-map match-any BACKUP
match access-group 101
policy-map QOS-POLICY
class BACKUP
police 5m
◆ トラブル③:帯域保証を合計しすぎて、Best Effortが極端に遅くなる
原因:priority / bandwidth の合計が過剰で、Class-Default帯域が枯渇
改善策:
- priorityクラスはできる限り10〜15%以内に収める
- 業務アプリの優先度を適切に減らす
- Class-Defaultに最低20%は残す
■ QoS設計で失敗しないためのチェックリスト
- 分類基準(DSCP、ACL、アプリ識別)が明確であるか
- 優先度・帯域配分に過度な偏りがないか
- LAN〜WAN全区間でQoS挙動が一致しているか
- 流量の実測(NetFlow / NTA)を元に帯域設計しているか
- 端末のDSCPが正しく設定されているか
- QoSポリシー適用後の遅延・ジッタを測定したか
■ まとめ
QoSは「優先制御をかければ解決する」という単純なものではなく、 分類・帯域保証・インターフェース適用・DSCPの維持など、複数要素が正しく連動して初めて機能します。
また、QoSポリシーの誤設計によって 逆に遅延が増える・アプリ性能が落ちる といったトラブルも多く、実務でも慎重な設計が必要です。
この記事で紹介したトラブル原因と改善策は、現場で頻発する内容なので、設計・検証の参考にしてください。
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