社内ネットワークで「インターネットに出られない」「NATされていない」といったトラブルは頻発します。本記事では、初学者でも確実に原因を切り分けできるよう、確認ポイント → 対処方法 → コマンド例 → 結果例 → 解釈 の順で徹底解説します。
目次
【まず結論】NATされない主な原因
- ① NATルール(ACL/変換設定)の漏れ
- ② 内向き・外向きインターフェースの指定ミス
- ③ そもそも外向きインターフェースにグローバルIPがない
- ④ デフォルトルートの欠如
- ⑤ セキュリティ機器(FW)のフィルタリング
- ⑥ 間違ったゾーン設定(特にASA/Firepower)
ステップ1:NATルールが適用されているか確認
■ Cisco IOS の確認コマンド
show ip nat translations
show ip nat statistics
■ 結果例
R1# show ip nat translations
Pro Inside global Inside local Outside local Outside global
--- --- --- --- ---
■ 解釈
テーブルが空の場合、NAT変換が全く行われていないことを示す。 → 次の項目(ACL・NATルール・インターフェース指定)を重点的に確認。
ステップ2:NAT ACL の定義漏れ・範囲ミスの確認
■ ACL確認コマンド
show access-lists
■ 間違い例
access-list 1 permit 10.0.0.0 0.0.0.255
→ 正しくは 10.0.0.0/24 だが、実際の内部ネットワークは 10.1.0.0/24
■ 解釈
ACLが内部ネットワークを正しくマッチしていないと、NAT対象に入らないため変換されない。
ステップ3:NAT を適用するインターフェースが正しいか確認
■ IOS例(PAT)
interface GigabitEthernet0/1
ip nat inside
!
interface GigabitEthernet0/2
ip nat outside
■ よくあるミス例
- inside / outside を逆に設定している
- 外向きインターフェースをサブインターフェースで運用しているが outside を付け忘れ
■ 確認コマンド
show ip interface | include NAT
■ 結果例
GigabitEthernet0/1 is up, line protocol is up
IP NAT Inside
GigabitEthernet0/2 is up, line protocol is up
IP NAT Outside
ステップ4:外向きインターフェースにグローバルIPがあるか確認
■ コマンド
show ip interface brief
■ よくあるケース
DHCPでグローバルIPが取得できていないため NAT が成立しない。
■ 結果例
GigabitEthernet0/2 unassigned YES DHCP up up
→ ※IPが取れていない
■ 解釈
外向きIFにIPがない=変換先が存在しないので NAT はされない。
ステップ5:デフォルトルートが正しいか確認
show ip route
■ よくあるミス
- NATルータ自身がインターネットへ出るルートを知らない
- デフォルトゲートウェイが間違ったL3デバイスを向いている
■ 結果例
Gateway of last resort is not set
■ 解釈
デフォルトルートがないと NAT しても外へパケットを投げられないため通信不可。
ステップ6:外部への疎通テスト(NATデバッグ)
■ NAT デバッグコマンド
debug ip nat
■ 成功例
NAT: s=10.1.0.10 -> 203.0.113.5 , d=8.8.8.8
■ 失敗例
NAT: s=10.1.0.10, d=8.8.8.8 (missed translation)
■ 解釈
missed translation の場合は ACL または NATルール適用に問題がある。
ステップ7:FW・UTM がブロックしていないか確認
■ よくあるパターン
- 外向き80/443がFWで拒否されている
- ゾーンポリシーで内部→外部が許可されていない
■ 対応
FW側のログ(deny log)で確認。
【まとめ】NATされないときの最速チェックリスト
- NATテーブルに変換履歴があるか? → show ip nat translations
- ACLが内部ネットワークをマッチしているか?
- inside / outside の設定ミスはないか?
- 外向きIFにグローバルIPが付与されているか?
- デフォルトルートが正しいか?
- FWでブロックされていないか?
これらを順番に確認することで、ほぼすべての「NAT変換されない」問題を特定できます。
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