企業ネットワークを設計する際に必ず議題に上がるのが「VLANはいくつ作ればよいのか?」という問題です。
VLANは細かく分けすぎても運用が複雑になり、逆にざっくり分け過ぎてもセキュリティやトラブル影響範囲が大きくなります。
本記事では、企業ネットワークにおける最適なVLAN数・分割基準・推奨構成パターン・運用の注意点を、一般的なベストプラクティスに基づいて解説します。
目次
■ 1. VLANは「用途 × セキュリティ × トラフィック特性」で分割する
最適なVLAN数は、次の3要素のバランスで決めます。
- 用途(PC・サーバ・IoT・無線など)
- セキュリティ(アクセス制御の単位)
- トラフィック特性(ブロードキャスト・マルチキャスト負荷)
この3点を基準にしないと、意味のある分割ができません。
■ 2. 企業ネットワークで一般的な VLAN 分割例(実務基準)
| VLAN種別 | 用途 | 分割の妥当性 |
|---|---|---|
| PC端末用VLAN | 社員PC | 1〜数個に集約 |
| 管理用VLAN | NW機器・監視・管理端末 | 必ず分離 |
| サーバVLAN | オンプレ・業務システム | サービス単位で複数 |
| 無線LAN(社員用/来客用) | Wi-Fiクライアント | 用途別に2〜3個 |
| プリンタ/IoT専用VLAN | プリンタ・カメラ・IoT端末 | 1〜2個に集約 |
| 音声VLAN(VoIP) | IP電話 | QoSのため分離必須 |
典型的には、10〜20 VLAN 程度に収まる企業が多いです。
■ 3. VLANを「細分化しすぎる」デメリット
VLAN数は増やせばよいというものではありません。
過剰な細分化は運用に大きな負荷をもたらします。
● VLANが多すぎる場合の問題点
- 設定変更や追加作業が煩雑になる
- DHCPスコープの管理が増える
- FW/ACLルールが膨大になる
- トラブル調査の対象範囲が広がる
- ユーザ移動(別VLANへの移動)が発生しやすい
実務上、VLAN数=ネットワーク運用コストの増加に直結します。
■ 4. 逆に「VLAN数が少なすぎる」デメリット
VLANを1〜2個しか作らないと、セキュリティ面や性能面で以下の問題が発生します。
● VLANが少なすぎる場合の問題点
- PC・IoTが混在してセキュリティリスクが上昇
- ブロードキャストドメインが肥大化(ARP/DHCP)
- 何か故障すると影響範囲が全クライアントに及ぶ
- ネットワークアクセス制御(NAC)が実装しづらい
最低限の用途ごとに分割することが重要です。
■ 5. VLAN数の適正規模(実務での基準値)
企業規模ごとに一般的な VLAN 数の目安は以下です。
| 企業規模 | 平均VLAN数の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 小規模(〜50名) | 5〜10 | 用途は少ないが管理・Wi-Fi分離は必要 |
| 中規模(50〜300名) | 10〜20 | 業務システムやサーバ、IoTが増える |
| 大規模(300〜1000名) | 20〜40 | 部門・サービス単位の分離が必要 |
| 超大規模(1000名〜) | 40〜100 | 部門・拠点・セキュリティ要件が多様化 |
■ 6. VLAN分割の最適戦略(実務向け)
企業ネットワークで最適とされる VLAN の切り方をご紹介します。
● ① PC / 無線 / IoT / サーバ を用途で分割
- PC用 VLAN(1〜3)
- Wi-Fi VLAN(社員用 / 来客用)
- IoT VLAN(プリンタ・監視カメラ)
- サーバ VLAN(サービス単位で複数)
● ② セキュリティレベルによる分割
- 管理者用ネットワーク
- 重要システム(人事・経理など)
- 外部接続ネットワーク(DMZ)
● ③ トラフィック負荷で分割(ブロードキャスト抑制)
- VDIクライアントは専用VLANへ
- 大量ブロードキャストを送るIoTは切り離す
- VoIP(IP電話)は独立VLANとする
■ 7. VLAN分割の実務判断例(ケーススタディ)
● ケース1:オフィス150名、PCとWi-Fi中心
・PC-VLAN × 2
・Wi-Fi(社員)VLAN × 1
・Wi-Fi(来客)VLAN × 1
・IoT VLAN × 1
・管理 VLAN × 1
合計:6 VLAN(妥当)
● ケース2:システム部門を含む中規模企業
・PC-VLAN × 3
・無線VLAN × 2(社員用/来客用)
・IoT VLAN × 2
・VoIP VLAN × 1
・サーバ VLAN × 3
・管理 VLAN × 1
合計:12 VLAN(適正)
● ケース3:部門ごとにセキュリティルールが異なる大企業
・部門別PC-VLAN × 5〜10
・サーバ VLAN × 10〜20
・無線/IoT/VoIP各種
・業務システム専用VLAN
合計:30〜50 VLAN(大規模企業の標準)
■ 8. 結論:VLAN数は「10〜20」が最も運用しやすい
多くの企業では、以下がバランスの良い目安になります。
・小規模:5〜10 VLAN
・中規模:10〜20 VLAN
・大規模:20〜40 VLAN
・超大規模:40〜100 VLAN
重要なのは、
「用途」「セキュリティ」「トラフィック特性」の3軸で分割すること
分割しすぎず、少なすぎないバランスを取ること
VLAN設計はネットワーク運用を大きく左右するため、最適な分割戦略が非常に重要です。
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