「FWのルールは許可されているのに通信できない」
「しばらくすると通信が切れる」
このようなトラブルの多くは、FWのセッションテーブルに原因があります。
本記事では、ステートフルFWのセッション管理を正しく理解し、 通信トラブル時にどこを見て、どう判断するかを実務目線で解説します。
目次
FWセッションテーブルとは何か
ステートフルFWは、通信を単なるパケットの集合ではなく、 「セッション(通信の流れ)」として管理します。
セッションに含まれる情報
- 送信元IP / 宛先IP
- 送信元ポート / 宛先ポート
- プロトコル(TCP/UDP)
- 通信状態(SYN_SENT / ESTABLISHED など)
- タイムアウト値
この情報が格納されるのがセッションテーブルです。
なぜセッションテーブルが重要なのか
- 戻り通信を自動許可するため
- 異常通信を検知・遮断するため
- NAT変換を維持するため
セッションが正しく維持されない=通信が成立しない、という関係があります。
セッションテーブルの基本的な見方
表示例(概念)
TCP 10.1.1.10:52344 -> 10.2.2.20:443 ESTABLISHED timeout=300
見るべきポイント
- 通信方向(→ / ←)
- 状態(SYN_SENT / ESTABLISHED / FIN_WAIT)
- タイムアウト値
代表的なセッション状態と意味
- SYN_SENT:SYN送信後、応答待ち
- SYN_RECEIVED:SYN-ACK受信済み
- ESTABLISHED:通信確立
- FIN_WAIT:切断処理中
- CLOSED:セッション終了
状態を見るだけで、どこで止まっているかが分かります。
ケース① セッションが ESTABLISHED にならない
観測結果
- SYN_SENT のまま
考えられる原因
- 宛先サーバ未応答
- 戻り通信が遮断
- 非対称ルーティング
判断
FW自体は通信を開始しているが、 相手からの応答が戻っていない状態です。
ケース② セッションがすぐ消える
症状
- 接続後すぐ切断
- アプリが不安定
セッションテーブルの特徴
- 短時間で削除
- timeout が極端に短い
原因
- FWのセッションタイムアウト設定
- アイドル通信の長いアプリ
ケース③ セッション数が上限に達している
症状
- 新規通信が確立できない
- 断続的な通信失敗
FW側の状態
- セッション数が最大値付近
原因
- トラフィック増加
- DoS的挙動
- セッション解放漏れ
対処
- 不要通信の遮断
- FWスペック見直し
ケース④ NATとセッションの不整合
症状
- 片方向通信のみ成立
原因
- NATセッション切れ
- NAT変換数枯渇
確認ポイント
NATセッションと通信セッションは別管理の場合があります。
セッショントラブル時の確認手順
- FWルールの許可確認
- セッション生成有無確認
- セッション状態確認
- タイムアウト値確認
- セッション数・リソース確認
やってはいけないNG対応
- any-any ルール追加
- タイムアウトを無制限に延ばす
- 原因未特定のままFW再起動
一時回復しても再発確定です。
まとめ
- FWトラブルはセッションテーブルを見ると整理できる
- 通信状態・時間・数が重要な判断材料
- FWは「通したか」ではなく「維持できているか」が鍵
FWセッションテーブルを理解できると、 通信トラブルの説明力・解決速度が大きく向上します。
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