DHCPサーバーが別セグメントにある環境では、DHCPリレー(IP helper)が正しく動作していないと、クライアントがIPを取得できません。本記事では、実務で特に多い設定漏れパターン、再現例、確認手順、復旧方法、再発防止策をまとめます。
目次
■ DHCPリレー設定不備による典型的な原因
- ① ip helper-address の設定漏れ
- ② helper-address の宛先IP誤り(DHCPサーバIP間違い)
- ③ DHCPパケット(UDP 67/68)が FW / ACL により遮断
- ④ VLAN インターフェース(SVI)が shutdown / 未作成
- ⑤ トランク・VLAN設定不整合により DHCP Discover が届かない
- ⑥ DHCPサーバ側で対象ネットワークのスコープ未設定
■ トラブル再現例(実際の現場で多い)
● 再現例1:ip helper-address の設定漏れ
interface Vlan10
ip address 192.168.10.1 255.255.255.0
! helper の設定が無い
→ クライアントは DHCP Discover を送信するが、L3境界で止まり IP取得不可。
● 再現例2:宛先サーバIPの間違い
interface Vlan10
ip helper-address 192.168.100.20
→ DHCPサーバが「192.168.100.30」だった場合、配布されずタイムアウト。
● 再現例3:ACL または FW が DHCP を遮断
ip access-list 101
deny udp any any eq 67
deny udp any any eq 68
→ DHCP Discover / Offer が破棄される。
■ 初動で必ず行うべき確認チェックリスト
1. VLANインターフェース(SVI)を確認
show ip interface brief
● 例:
Vlan10 192.168.10.1 YES up up
→ “up/up” であることを確認。
2. ip helper-address の確認
show run interface vlan 10
● 例:
interface Vlan10
ip address 192.168.10.1 255.255.255.0
ip helper-address 192.168.100.30
→ 宛先が DHCP サーバの正しいIPになっているか確認。
3. DHCPパケットが通過できるか ACL/FW を確認
show access-lists
● チェックポイント:
- UDP 67(server)
- UDP 68(client)
これらが許可されているか確認。
4. DHCPサーバ側のスコープ設定を確認
(Windows DHCP例)
Get-DhcpServerv4Scope
→ 対象ネットワーク(例:192.168.10.0/24)のスコープが存在するか確認。
■ DHCPリレーが正常に動いているかの動作確認
● スイッチで DHCP リレーの統計を確認
show ip dhcp relay information statistics
● 例:
Relay Forwarded: 125
Relay Replies: 124
→ 送信数と返信数が近い=正常。
■ 解決策(原因別の具体的な修正方法)
● ① ip helper-address の設定漏れを修正
interface Vlan10
ip helper-address 192.168.100.30
● ② 送信先 DHCP サーバアドレスを修正
interface Vlan10
no ip helper-address 192.168.100.20
ip helper-address 192.168.100.30
● ③ ACL / FW が DHCP をブロックしている場合
ip access-list extended 101
permit udp any any eq 67
permit udp any any eq 68
● ④ VLAN がトランクを通過できていない場合
show interface trunk
→ VLAN10 が “allowed” に入っていなければ追加:
interface Gi1/0/1
switchport trunk allowed vlan add 10
● ⑤ DHCPサーバにスコープがない場合
(Windows DHCP)
Add-DhcpServerv4Scope -Name "Office" -StartRange 192.168.10.100 -EndRange 192.168.10.200 -SubnetMask 255.255.255.0
■ 再発防止策(実務で最重要)
- VLAN作成 → SVI作成 → helper設定 → ACL確認 の手順を標準化
- 変更前後の config diff を必ず確認
- DHCPサーバ側にネットワーク追加時のチェックリスト作成
- Network Management / NetBox で VLAN-SVI-helper を紐付け管理
- 監視ツールで DHCPリレー統計の異常値を検知
■ まとめ
DHCPリレーが正しく動かないと、PC・IP電話・プリンタなど全デバイスがIP取得に失敗し、業務影響が非常に大きくなります。本記事の「原因 → コマンド例 → 結果例 → 修正方法」を押さえておけば、実務現場でも迅速に復旧できます。
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