「端末がAPIPA(169.254.x.x)になる」「IPが全く割り当てられない」 その根本原因として非常に多いのが DHCP Discover が届いていない 状態です。
本記事では、
- DHCP Discover の役割と通信特性
- どこでパケットが止まるのか
- L2 / L3 / FW / セキュリティ機能別の切り分け
- 現場で最短復旧するための確認順
を 実務目線で体系的 に解説します。
目次
DHCP Discoverとは何か(復習)
DHCP Discover は、クライアントが最初に送信する IP取得要求のブロードキャスト です。
送信元IP : 0.0.0.0
宛先IP : 255.255.255.255
送信元Port : UDP 68
宛先Port : UDP 67
このパケットがDHCPサーバに届かない限り、IP割り当ては絶対に始まりません。
DHCP Discoverが届かないと起きる症状
- 169.254.x.x(APIPA)が割り当てられる
ipconfig /renewがタイムアウト- DHCPサーバのログに一切記録が残らない
この状態は DHCPサーバ側の問題ではない可能性が高い のが重要なポイントです。
切り分けの全体像(どこで止まるか)
[端末]
↓ Discover
[L2スイッチ]
↓
[L3IF / ルータ]
↓ (DHCP Relay)
[FW]
↓
[DHCPサーバ]
Discoverが届かない原因は、必ずこの途中に存在します。
① 端末側でのDiscover送信確認
確認ポイント
- NICが有効か
- リンクアップしているか
- DHCPが有効になっているか
Windows確認例
ipconfig /all
DHCP 有効 : はい となっていなければ Discover は送信されません。
② L2スイッチでの遮断(最頻出)
DHCP Snooping の誤設定
以下は Discover が スイッチで破棄される典型例 です。
- DHCP Snooping 有効
- クライアントポートが untrusted
- uplink 側も untrusted のまま
確認コマンド(Cisco)
show ip dhcp snooping
show ip dhcp snooping binding
重要ポイント
Discover は trusted ポート方向にしか流れません。
③ VLAN設定・ポート設定ミス
よくあるミス
- アクセスポートのVLAN誤り
- Native VLAN 不一致
- Trunk で VLAN が許可されていない
確認コマンド
show vlan brief
show interfaces trunk
Discover は VLAN を越えられないため、 VLANミス=即Discover未到達 になります。
④ L3・DHCPリレー未設定
DHCPサーバが別セグメントにある場合、 DHCPリレー(ip helper-address)が必須 です。
確認例
show running-config interface vlan 20
正しい設定例
interface Vlan20
ip address 192.168.20.1 255.255.255.0
ip helper-address 192.168.100.10
これが無い場合、DiscoverはL3で破棄されます。
⑤ ファイアウォールでの遮断
注意点
- DHCPは UDP/67,68
- ブロードキャスト → ユニキャスト変換後に遮断されやすい
FWで確認すべきこと
- DHCP Relay → Server の通信許可
- ゾーン跨ぎ通信の許可
FWログに DROP が出ていないか を必ず確認します。
⑥ パケットキャプチャでの最終確認
確認ポイント
- 端末 → Discover が出ているか
- L3IF → Relay されているか
- FW → Server 側に届いているか
フィルタ例
udp.port == 67 || udp.port == 68
どこで消えたか が一目で分かります。
即使える切り分けチェックリスト
- 端末はDHCP有効か
- 同一VLANで他端末もNGか
- DHCP Snooping 設定確認
- VLAN / Trunk 設定確認
- DHCP Relay 設定確認
- FWログ確認
設計で防ぐためのポイント
- DHCP Snooping 設計書の明文化
- VLAN・IP・DHCP対応表の整備
- DHCP通信をFWで明示的に許可
- 障害時の固定IP切替手順を用意
まとめ
- Discoverが届かない=DHCPは始まらない
- 原因の大半は L2 / VLAN / Snooping
- 通信経路を意識すれば切り分けは一本道
DHCP障害は「慣れ」が全てです。 Discover の流れを頭に描けるようになると、 APIPA対応は数分で終わる作業 になります。
あわせて読みたい


DHCP の動作原理と IP 割り当てトラブル対処法
DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)は、ネットワーク上の端末に自動でIPアドレスやネットワーク設定を割り当てる仕組みです。企業ネットワークから家庭用ルー…
あわせて読みたい


DHCPリレー設定不備によるIP割り当て失敗の原因と対処法
DHCPサーバーが別セグメントにある環境では、DHCPリレー(IP helper)が正しく動作していないと、クライアントがIPを取得できません。本記事では、実務で特に多い設定漏…
あわせて読みたい


DHCPでIPアドレスが取得できない原因と対処法【典型パターンまとめ】
クライアントが DHCP で IP アドレスを取得できない場合、ネットワーク利用が完全に停止するため、非常に重大な障害となります。本記事では、DHCP で IP が取得できない…
あわせて読みたい


DHCPスヌーピング・Dynamic ARP Inspection の仕組みと実務設定
DHCPスヌーピング(DHCP Snooping)と Dynamic ARP Inspection(DAI)は、L2ネットワークにおける不正攻撃(なりすまし)を防ぎ、業務ネットワークの安全性を高めるため…
