クライアントが DHCP で IP アドレスを取得できない場合、ネットワーク利用が完全に停止するため、非常に重大な障害となります。
本記事では、DHCP で IP が取得できないときの典型的な原因・切り分け手順・対策を、ネットワーク実務者向けにわかりやすくまとめています。
目次
1. DHCPの仕組み(簡易図解)
[Client] → DHCP Discover
[Server] → DHCP Offer
[Client] → DHCP Request
[Server] → DHCP ACK
この4つのメッセージ交換のどこかで問題が起きると、IPアドレスを取得できません。
2. まず確認すべきポイント(初動チェック)
DHCPトラブルは複雑に見えますが、まず以下を確認すると原因が絞れます。
- 物理リンクが正常か(LANケーブル・Wi-Fi)
- VLAN設定は正しいか
- DHCPサーバが生存しているか
- DHCPスコープに空きIPがあるか
- リレー(DHCP Relay / IP Helper)の設定は正しいか
3. DHCPでIPが取得できない典型パターン
パターン1:物理リンク異常(最も多い)
- LANケーブル断線
- スイッチポート障害
- Wi-Fiの認証エラー
対策:
・ケーブル交換
・別ポートに挿し替え
・Wi-Fiの認証/暗号化設定を確認
パターン2:VLAN設定ミス
クライアントが所属すべき VLAN と、スイッチの VLAN 設定が一致していない場合に発生。
例:
クライアント:VLAN 20
スイッチポート:VLAN 10 に設定されている
対策:
・access vlan <正しいVLAN>
・trunk の許可 VLAN を確認
パターン3:DHCPサーバが停止している
- サービスが落ちている
- サーバ自体が停止
- FW ルールでブロックされている
対策:
・DHCPサービスの再起動
・サーバ監視でCPU/メモリを確認
・ファイアウォールのUDP 67/68 を確認
パターン4:アドレスプールの枯渇(IP不足)
意外と多いトラブル。IP がすでに全て割り当て済み。
確認:
・DHCPスコープの利用率(90%以上は危険)
・重複アドレスがないか
対策:
・スコープ範囲の拡大
・不要なリースの削除
パターン5:DHCPリレー(IP Helper)の設定ミス
L3スイッチやルーターを跨ぐ環境で多発。
原因例:
・ip helper-address の設定漏れ
・VLAN Interface が shutdown
・DHCP中継のFirewallがブロック
対策:
・ip helper-address <DHCP server IP> を設定
・インターフェースのUP/DOWN確認
・FWログでDHCPパケット通過を確認
パターン6:MACアドレスフィルタ/ポートセキュリティ
ネットワーク装置側でクライアントの MAC が拒否されているケース。
対策:
・port-security mac-address を確認
・最大MAC数 (max) の制限を緩和
パターン7:クライアント側の設定不備
クライアントが固定IPのままになっている、DHCP無効など。
対策:
・DHCP利用に設定変更
・OSのネットワークスタックを再起動
4. 実務向け・原因特定の手順(チェックリスト付き)
STEP 1:IP構成を確認
# Windows
ipconfig /all
# Linux
ip addr
169.254.x.x(APIPA) → DHCP取得失敗の証拠。
STEP 2:DHCP Discover が出ているか確認(Wireshark)
Bootp → DHCP Discover
- Discoverが出ていない → クライアント側問題
- Discoverは出るが Offer が来ない → サーバ/経路問題
STEP 3:スイッチログを確認(port-security / shutdown)
show interface status
show port-security
STEP 4:DHCPサーバのログを確認
Windows Server / Linux / Cisco などで共通し重要。
STEP 5:DHCPリレー経路を検証
show ip interface vlan XX
show running-config | include helper
5. トラブルの原因 × 対処一覧(まとめ表)
| 原因 | 確認ポイント | 対策 |
|---|---|---|
| 物理リンク断 | リンクLED / speed | ケーブル交換 |
| VLAN誤設定 | access VLAN / trunk許可 | 正しいVLANへ変更 |
| DHCPサーバ停止 | サービス状況 | 再起動 / リソース確認 |
| IP枯渇 | スコープ使用率 | 範囲拡張 / リース削除 |
| DHCPリレー不備 | helper設定 | 正しいアドレスを設定 |
| MAC制限/ポートセキュリティ | port-security | 解除 / 緩和 |
| クライアント設定不備 | 静的IP設定 | DHCPに戻す |
6. まとめ
DHCPでIPアドレスが取得できない問題は、以下の順番でチェックすることで短時間で解決できます。
- 物理リンクと VLAN の確認
- DHCPサーバの状態とスコープ空き確認
- DHCPリレー設定(ip helper-address)の確認
- クライアント側の設定確認
- 必要に応じてパケットキャプチャで確認
この手順で、多くのDHCPトラブルは迅速に特定できます。
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