ネットワーク遅延(レイテンシ)や輻輳(ネットワーク混雑)は、業務システムやクラウドサービスの利用に大きな影響を与えます。
本記事では、遅延・輻輳の原因を体系的に特定するための手順と、実務で使える診断ツールの活用方法をわかりやすく解説します。
目次
1. ネットワーク遅延/輻輳とは?
■ 遅延(Latency)
データが送信してから相手に届くまでの時間(RTT)。
■ 輻輳(Congestion)
ネットワークの一部が過負荷になり、パケットが遅延・ドロップする状態。
図示すると次のようになります:
正常時:
[PC] →→→→→→→→→ [Router] →→→→→ [Server]
輻輳時:
[PC] →→→→×××→→→ [Router](混雑) →→→→ [Server]
↑ 遅延・ドロップ発生
遅延と輻輳は関係が強く、輻輳が発生すると遅延・パケットロス・ジッタが発生します。
2. 遅延/輻輳の原因分類
- ① 回線帯域の不足(アクセス集中、バックアップの時間帯負荷)
- ② ルーター・FW・L3SW の高負荷
- ③ 回線事業者(ISP)の混雑
- ④ 通信経路の異常(BGP迂回、海外経路化)
- ⑤ VPN ゲートウェイの処理不足
- ⑥ Wi-Fi 無線チャネルの干渉や品質低下
多くのケースで、上記のどれかに必ず当てはまります。
3. 遅延/輻輳の診断に使う主要ツール
■ 1. ping(遅延・パケットロス)
ping -c 10 example.com
確認ポイント:
- RTT(往復時間)の平均値
- 最大値(スパイク)
- パケットロス率
■ 2. traceroute / tracert(経路遅延特定)
traceroute example.com
tracert example.com
どのホップで遅延が増えているかを確認します。
■ 3. mtr(ping + traceroute の統合版)
mtr -rw example.com
パケットロス箇所を識別する最強ツールです。
■ 4. iperf3(帯域測定)
# サーバ側
iperf3 -s
# クライアント側
iperf3 -c <server-ip>
回線の帯域上限を測定できます。
■ 5. SNMP 監視(トラフィック量の把握)
監視ツール例:
- Zabbix
- Cacti
- LibreNMS
インターフェースの In/Out 利用率が 90% を超えると、輻輳の可能性が高まります。
■ 6. Wireshark(パケット解析)
遅延の原因がアプリケーションレイヤの場合にも有効。
4. 遅延/輻輳を調査する具体的手順(実務向け)
STEP 1:まず ping で遅延の有無を確認
例:
rtt min/avg/max/mdev = 3.1/4.8/15.3/2.0 ms
ポイント:
- 平均値が高い → 常時遅延
- 最大値のみ高い → スパイク(混雑発生)
- ロスあり → 重大(輻輳か装置不良)
STEP 2:traceroute で遅延の箇所を特定
1 1 ms
2 3 ms
3 4 ms
4 150 ms ← 急増(輻輳)
5 155 ms
ホップ4が問題。
STEP 3:mtr で遅延・ロスの傾向を確認
mtr は数十秒継続観測ができるため、安定した傾向が得られます。
Loss% Avg Wrst Last
0% 3 5 3
0% 4 6 4
30% 150 300 180 ← ロス多数
Loss% が 1% 超えた時点で「異常」。
STEP 4:SNMP で装置や回線の負荷を確認
トラフィックグラフ例(イメージ):
時間 ─────────▶
利用率%
90 | ■■■■■■■■■■
80 | ■■■■■
70 | ■■■■
ポイント:
- 回線の利用率が 80% を超える → 輻輳の要因
- CPU が 80%以上 → ルーター/ファイアウォールが処理落ち
STEP 5:必要に応じて帯域測定(iperf3)
回線が細っていないか検証します。
5. よくある遅延/輻輳の原因と対処法
■ ケース1:特定時間帯だけ極端に遅い
原因:
- バックアップ時間帯の帯域圧迫
- ISPの混雑(夜間ピーク)
対処:
- SNMP のトラフィック推移を確認
- バックアップ時間の変更・QoS で制御
■ ケース2:特定拠点の VPN が遅い
原因:
- VPN ルーターの CPU 高負荷
- 拠点の回線品質低下
対処:
- mtr で拠点 ↔ 本社の双方をチェック
- ルーターの CPU / トラフィックを SNMP で確認
■ ケース3:海外経路に迂回されている
原因:
- BGP 経路変更
- ISPの障害による迂回
対処:
- traceroute の経路が急に変わっていないか確認
- ISP へ問い合わせ
6. まとめ:遅延/輻輳の診断は手順が重要
ネットワーク遅延や輻輳を調査する際は、正しい順番で確認することで原因が短時間で特定できます。
- ping で遅延の有無を確認
- traceroute で遅延ポイントを確認
- mtr でロス・平均遅延の傾向を観測
- SNMP で装置・回線の負荷状況を可視化
- 必要に応じて iperf3 で帯域を測定
この5ステップを実行することで、遅延や輻輳の原因をほぼ確実に把握できます。
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