「通信は出ているのに応答が返ってこない」
「FWを経由すると通信が不安定になる」
このようなトラブルの原因として、非常に多いのが非対称ルーティング(Asymmetric Routing)です。
本記事では、非対称ルーティングがなぜFW通信を壊すのかを、 セッション管理・パケットの流れ・実務での対処手順まで含めて解説します。
目次
非対称ルーティングとは何か
非対称ルーティングとは、 通信の往路と復路で通過する経路が異なる状態を指します。
イメージ
- 送信:端末 → FW-A → ルータ → サーバ
- 応答:サーバ → ルータ → FW-B → 端末
ネットワークとしては到達可能でも、 FW視点では「通信の流れが分断」されます。
なぜFWで問題になるのか
多くのファイアウォールはステートフルFWです。
つまり、FWは次のように通信を管理しています。
- 最初のパケットを見てセッションを生成
- 同一経路を通る応答を許可
- セッションに一致しない通信は破棄
非対称ルーティングでは、この前提が崩れます。
FWから見た非対称通信の実態
① 往路パケット
- FW-Aを通過
- セッション作成
② 復路パケット
- 別のFW(FW-B)を通過
- FW-Bにはセッション情報がない
- 結果:破棄される
これが「通信できそうでできない」正体です。
よくある症状
- pingは通るがアプリ通信は失敗
- TCP接続が確立しない
- SYNは出るがACKが返らない
- 通信が片方向のみ成立
特にTCP通信で顕著に現れます。
非対称ルーティングが起きやすい構成
- FW冗長構成(Active/Active)
- 複数WAN回線
- ECMP(等コストマルチパス)
- クラウド+オンプレ接続
冗長化・負荷分散構成ほど発生しやすい点が特徴です。
確認手順①:経路の可視化
実施コマンド例
traceroute <宛先IP>
tracert <宛先IP>
確認ポイント
- 往路と復路でFWが一致しているか
- 戻り通信が別インターフェースに来ていないか
確認手順②:FWセッションの確認
- セッションが片側にしか存在しない
- 通信開始直後に消える
この場合、非対称ルーティングの可能性が極めて高いです。
典型的な誤解
- FWのルール不足だと思いがち
- アプリの問題だと疑う
- 回線品質を疑う
ルーティング設計が原因であるケースが非常に多いです。
正しい対処方法
① 経路を対称にする(最優先)
- PBR(ポリシールーティング)
- デフォルトGWの統一
② FW冗長構成の見直し
- Active/Standby 構成
- セッション同期の有無確認
③ ECMPの制御
- FW経由トラフィックはECMP除外
どうしても非対称になる場合の対策
- FWの非対称通信許可設定
- ステートレスFW化(限定的)
ただしセキュリティ低下を伴うため、最終手段です。
結果例(改善後)
- TCP接続が安定
- FWログのDROPが消失
- 通信断・再接続が解消
まとめ
- 非対称ルーティングはFW通信の大敵
- ステートフルFWでは特に致命的
- 対策は「FW設定」より「経路設計」
FWトラブルの多くは設定ではなく設計に原因があります。 非対称ルーティングを理解することで、原因特定スピードは一段階上がります。
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