IPv4では当たり前だったARPは、 IPv6ではND(Neighbor Discovery)に置き換えられています。
しかし実務では、
「IPv6を有効にした途端に通信が不安定になった」
「冗長切替後、IPv6だけ通信できない」 といったトラブルが頻発します。
本記事では、
ARPとNDの違いを正しく理解し、設計・運用で何に注意すべきかを 実務目線で解説します。
目次
ARPとNDの役割の違い
| 項目 | ARP(IPv4) | ND(IPv6) |
|---|---|---|
| 役割 | IP→MAC解決 | IPv6→MAC解決 + 追加機能 |
| 使用プロトコル | ARP | ICMPv6 |
| 通信方式 | ブロードキャスト | マルチキャスト |
| 冗長通知 | Gratuitous ARP | Neighbor Advertisement |
NDは単なるARP代替ではなく、 IPv6通信の基盤そのものです。
ND(Neighbor Discovery)で追加された機能
- Neighbor Solicitation / Advertisement
- Router Advertisement(RA)
- アドレス重複検出(DAD)
- Prefix配布
- デフォルトGW通知
つまりNDが壊れると、
「名前解決以前に通信自体が成立しない」状態になります。
通信方式の違いが設計に与える影響
ARP(IPv4)
- 全端末ブロードキャスト
- LAN規模拡大で負荷増加
ND(IPv6)
- Solicited-node multicast
- 必要な端末のみ受信
IPv6はスケーラビリティを前提に設計されています。
タイムアウト・キャッシュ挙動の違い
| 項目 | ARP | ND |
|---|---|---|
| 保持時間 | 固定 or 手動設定 | 状態遷移型(Reachable / Stale) |
| 更新方法 | 再ARP | Reachability確認 |
NDは単純なタイマーではなく状態遷移で管理されます。
冗長構成での挙動の違い
IPv4(ARP)
- GARPが届かないと通信断
- ARPタイムアウト待ち
IPv6(ND)
- NAによる即時更新
- ただしFW/ACLでICMPv6遮断されがち
IPv6通信断の最大原因は「ICMPv6遮断」です。
設計上の最大の注意点① ICMPv6を止めない
以下を止めるとIPv6は壊れます。
- Neighbor Solicitation / Advertisement
- Router Advertisement
- Packet Too Big
IPv4の「pingは止めてもOK」という発想は、 IPv6では通用しません。
設計上の注意点② DAD(重複検出)による遅延
IPv6ではアドレス設定時にDADが必ず実行されます。
- 初期通信が遅れる
- 切替直後に通信不可
サーバ用途ではDAD無効化を検討するケースもあります。
設計上の注意点③ NDとFW・L2制御
- RA Guard
- ND Inspection
- MLD Snooping
これらが誤設定されると、
IPv6だけ通信不可という症状が出ます。
トラブル時の切り分けポイント
- ndp -a / ip -6 neigh 確認
- RAが届いているか
- ICMPv6がFWで許可されているか
- 状態が STALE / INCOMPLETE で止まっていないか
ARPとNDを混在させる際の実務ポイント
- IPv4とIPv6を同時に疑う
- IPv6通信断は「ARP系」と誤認しやすい
- FWログはICMPv6も必ず確認
まとめ
ARPとNDは、
「同じ役割だが設計思想は全く別」です。
IPv6では、
ICMPv6=制御プレーンという理解が不可欠です。
IPv4の感覚でIPv6を扱うと必ず詰まります。 NDを理解した人が、IPv6設計を制します。
あわせて読みたい


ARPタイムアウト値はどう決めるべきか?【設計基準・トラブル事例・推奨値まとめ】
ARPタイムアウト値は、多くのネットワークで「デフォルトのまま放置されがち」な設定項目です。 しかし実務では、冗長切替・ルーティング変更・FW/NAT・無線LAN などと…
あわせて読みたい


IPv6通信トラブルとデュアルスタックの落とし穴【原因と対策】
近年、多くのネットワークが「IPv4 / IPv6 のデュアルスタック構成」を採用するようになりました。 しかし、IPv6 が正しく動作していないのに端末が IPv6 を優先してし…
あわせて読みたい


Gratuitous ARPが届かない環境でのHSRP対策【通信断を防ぐ実践設計】
HSRP切替後にActiveは切り替わっているのに通信が復旧しない―― この原因の多くは Gratuitous ARP(GARP)が届いていない ことです。 本記事では、GARPが届かない環境の…
