ルーティングループは、ネットワークにおける重大トラブルの一つです。 正しく設計されていない場合、パケットがネットワーク内を永続的に回り続け、CPU高騰・帯域圧迫・通信断を引き起こします。
本記事では、ルーティングループが発生する典型的な原因と、L2/L3構成・OSPF/BGPなどの実務で行うべき防止策をまとめます。
1. ルーティングループとは
誤ったルート情報により、宛先へ到達できないパケットが複数ルータ間を循環し続ける状態を指します。
ループが起きると以下の問題を引き起こします:
- CPU使用率の急上昇
- 帯域の圧迫(ブロードキャストストームに類似)
- 通信断・遅延
- OSPF/BGPなどのルーティング不安定化
ネットワークの品質を大幅に下げるため、設計段階から防止策を講じる必要があります。
2. ルーティングループが発生する典型原因
- 経路再配送(Redistribute)の誤設定
- スタティックルートの向き先が誤っている
- OSPFエリア設計の不備
- BGP AS-path が意図せず短くなっている
- 障害時のブラックホールルートへの迂回
- VRRP/HSRPのActiveが想定外の方向に存在する
特に実務で多いのが、再配送によるループ と スタティックルートの相互向き合いです。
3. 距離ベクトル型プロトコルにおけるループ例
RIPなどの 距離ベクトル型プロトコル では、ループが構造上起こりやすい特徴があります。
■ 典型例:カウントトゥインフィニティ問題
障害が発生したリンクを、隣接ルータが「より遠い経路」と認識し続け、メトリックが無限大まで増える現象です。
■ 防止技術
- スプリットホライズン
- ポイズンリバース
- ホールドダウンタイマー
現代ではRIPを使うケースは減りましたが、外部NWとの接続などで発生する可能性は残ります。
4. リンクステート型プロトコル(OSPF)でのループ原因
リンクステート型はループしにくいと言われますが、以下のケースではループが発生します。
■ ① OSPFエリアを跨ぐ再配送の誤設定
異なるエリア間でルートが二重に広告されると、片側にブラックホールが発生しループにつながります。
■ ② OSPFコスト設定の不整合
複数経路がある場合:
- コスト値の大小
- 等コスト設定(ECMP)を意図しないまま有効化
これにより迂回ルートを形成し、ホップが往復するループが起こることがあります。
■ ③ LSAフラッピング
不安定な回線で LSA 更新が連続すると、ルータ全体でSPF計算が不安定になり経路が揺らぐ → ループ発生につながるケースがあります。
5. 静的ルートで発生するルーティングループ
実務で最も多いループ原因はスタティックルートの誤設定です。
■ 典型例
R1: ip route 10.0.0.0/24 → R2 R2: ip route 10.0.0.0/24 → R1
宛先が存在しない時、R1 → R2 → R1 → … とループが発生します。
■ 防止策
- ブラックホールルートを明示的に設定
- スタティックルートには必ず Track を設定する
- スタティックルート同士で向き合わないよう設計する
6. BGPにおけるループ原因と防止策
■ AS Path が短縮されるケース
再配送(redistribute)でAS番号が除去されると、別ASから見た際に「より短い経路」と誤認し、ループを作ることがあります。
■ 防止策
- AS Path prepend を活用する
- next-hop-self を正しく使う
- 再配送ポリシーにフィルタ(route-map)を必ず適用
- 同一プレフィックスを複数の経路で受けないようにする
- iBGPではフルメッシュ or Route Reflector構成にする
7. 設計でルーティングループを防止するためのチェックリスト
■ ① L2/L3境界を明確にする
誤ったL3境界は、VLAN間ルーティングのループを引き起こします。
■ ② 冗長構成(VRRP/HSRP)を正しく設計
- Active/Standby の向きが対称になるようにする
- トラッキングにより片系障害を検知
■ ③ 経路再配送ルールを常に明文化
- OSPF ⇔ BGP の再配送は特に危険
- Route-map による絞り込みは必須
■ ④ 静的ルートの向き先にブラックホールルートを併用
宛先不明時の無限ループを防止できます。
■ ⑤ OSPF のエリア設計を単純化
- ABR を増やしすぎない
- エリア間ルートを必要以上に再広告しない
■ ⑥ BGP の AS パス制御を適切に行う
- AS Path / Local Preference / MED を整理
- 意図しないベストパスを抑制
まとめ
ルーティングループは、構成によっては広範囲に影響する重大トラブルですが、適切な設計でほぼ確実に防止できます。
特に重要なのは以下のポイントです。
- 再配送(Redistribute)の管理
- 静的ルートの向き先とブラックホールルート設定
- VRRP/HSRP方向性の正しい設計
- OSPF/BGP のルーティングポリシー整理
これらのポイントを押さえることで、安定性が高くトラブルの少ないネットワーク運用が可能になります。



