企業ネットワークにおいて、IPアドレスとサブネットの設計は「運用負荷」や「障害の起きやすさ」に直結します。 適切な CIDR 設計ができていないと、以下のような問題が高確率で発生します。
- アドレス枯渇(特にサーバ・仮想環境)
- IP重複による通信断
- サブネット跨ぎのルーティングトラブル
- 監視やACLが複雑化し、運用不能になる
本記事では、実務で使えるIPアドレス設計の最適解と、エンジニアがよく踏む落とし穴をまとめます。
目次
結論:IPアドレス設計の最適解
- 用途ごとに/24(256個)を基本単位とする
- 利用端末数が少ない場合は /25 /26 /27 で細かく VLSM する
- サーバ系は余裕を持って /23 や /22 を割り当てる
- ネットワーク機器は/30か/31を使いアドレス浪費を防ぐ
- 拠点間VPNは/30 か /31がベスト
- 管理ネットワークは業務系と必ず分離
- IPv6 は /64 を必ず付与(変えない)
次章から、実務でのベストプラクティスを具体的に解説します。
1. CIDR と VLSM の基本(実務向け)
■ CIDR の代表例
| プレフィックス | ホスト数 | 用途 |
|---|---|---|
| /24 | 256 | フロア単位・部署単位で最もよく使われる |
| /25 | 128 | 小規模部署、検証環境 |
| /26 | 64 | 工場設備、小規模端末網 |
| /30 | 4 | ルータ間ポイントツーポイント |
| /31 | 2 | RFC 3021:ルータ間リンクで推奨 |
■ 実務では VLSM(可変長サブネット)が必須
IPアドレス節約のため、必要な部分だけサブネットを細かく切ることを指します。
- ルータ間リンク → /31
- 管理ネットワーク → /28 /29
- 部署ネットワーク → /24(推奨)
- サーバVLAN → /23〜/22
2. 業務ネットワーク別の最適サブネット
■ クライアントPC(一般社員用)
- /24 が最適(256IP)
- 最大200台前後を目安に設計(DHCP除外や予備IPを考慮)
■ サーバVLAN(物理/仮想)
- /23 〜 /22 を推奨
- VM環境は増加しやすいので余裕を持たせる
■ 管理ネットワーク(ネットワーク機器向け)
- /28 が一般的(16 IP)
- 大規模なら /27 や /26 もあり
- PC、サーバとは必ず分離
■ DMZ 環境
- /27(32 IP)~ /24
- 公開サーバは増減があるので余裕を持つ
■ ルータ間リンク(WAN)
- /31 がベストプラクティス
- 従来 /30 を使っていたがアドレスがもったいない
3. 実務でよくある落とし穴
❌ 落とし穴1:/24 の部署から溢れ始める
200台を超えると一気に衝突が増え、トラブルも増加します。
対処方法:
- 部署を VLAN で分割(2 × /25 等)
- リソースが増える部署は /23 に拡張
❌ 落とし穴2:管理ネットワークと業務PCが同一セグメント
障害対応時に PC のブロードキャストが邪魔になるため NG。
対処方法:
- 管理は /28 で専用 VLAN を作る
- 監視通信は ACL を明示的に制御
❌ 落とし穴3:同じIP範囲を別拠点で使ってしまう
SD-WAN や VPN で繋ぐ際にルーティングが破綻する典型例。
対処方法:
- 全社IPアドレス計画書を作成
- 拠点ごとに 10.x.x.0/24 を区分(例:東京10.10、大阪10.20)
❌ 落とし穴4:/30 や /31 の設計を知らず WAN を /24 とかで切る
アドレス浪費の典型。WANリンクは /30 or /31 が基本。
❌ 落とし穴5:IPv6 のプレフィックス長を勝手に変える
IPv6 は基本どんなネットワークでも /64 を使用。
4. CIDR 計算の実務例
■ 200台のPCを収容する場合
必要IP:200 + 20(予備 & DHCP除外) = 220
→ /24(256IP)が最適
■ 10台のネットワーク機器を管理する VLAN
→ /28(16 IP)が最適
■ ルータ同士のポイントツーポイント
→ /31(2 IP)
■ 複数拠点のIP設計例
- 東京:10.10.x.0/24
- 大阪:10.20.x.0/24
- 名古屋:10.30.x.0/24
このように拠点番号をサードオクテットに入れると管理が容易。
5. 設計チェックリスト(コピペ用)
□ サブネットは /24 を基本単位としているか? □ VLSM を活用して小さいネットワークを細かく切っているか? □ サーバ・仮想環境は /23〜/22 など余裕を持った設計か? □ 管理ネットワークは専用 VLAN + /28 で分離しているか? □ WAN リンクは /31 を使っているか? □ 全社でIPアドレス計画書を作成しているか? □ IPv6 の /64 を変更していないか?
まとめ
IPアドレス・サブネット設計は、ネットワーク運用の安定性に直結します。 特に企業環境では、アドレス計画書の作成と、将来拡張を見越したVLSMが重要です。
あわせて読みたい


VLAN数はいくつが最適か?企業ネットワークでの適正規模と分割戦略
企業ネットワークを設計する際に必ず議題に上がるのが「VLANはいくつ作ればよいのか?」という問題です。VLANは細かく分けすぎても運用が複雑になり、逆にざっくり分け…
あわせて読みたい


ネットワークセグメント設計の最適化とIPアドレス管理の実務テクニック
ネットワークセグメント設計は、通信の効率化・セキュリティ強化・トラブルシューティングの容易さに大きな影響を与えます。セグメント設計が適切でないと、ブロードキ…
あわせて読みたい


IPv6とIPv4の違い・移行技術
インターネットの根幹を支える通信プロトコルには「IPv4」と「IPv6」の2種類があります。IPv4のアドレス枯渇問題を解決するためにIPv6が登場しましたが、現在も両者は併…
