OSPF(Open Shortest Path First)は企業ネットワークで最も利用されるIGPですが、エリア間で経路が通らないという障害は現場で頻発します。
本記事では、OSPFのエリア間通信が失敗する原因と、実務でそのまま使える確認・解決手順を、コマンド例と出力例を交えてわかりやすく解説します。
目次
■ まず押さえるべき:OSPFエリア間通信の要点
- OSPFはABR(Area Border Router)がエリア間の経路交換を担当する
- エリア0(バックボーン)が基点。通常、すべてのエリアはArea 0と接続が必要
- 非バックボーン同士(例:Area 10 ↔ Area 20)は直接通信しない
つまり、Area 0をまたぐ経路交換ができていない場合、エリア間ルーティングが失敗します。
■ 典型的な原因一覧
- ① ABRの設定誤り(area番号間違い)
- ② バックボーンエリア(0)に接続されていない
- ③ SPFループを避けるための設計問題(Area 0 の分断)
- ④ ネットワークタイプの不一致(P2P / Broadcast)
- ⑤ Hello / Dead タイマの不一致
- ⑥ OSPFフィルタリング(distribute-list / area filter-list)
- ⑦ LSAが生成されていない(ASBR / ABRの欠落)
■ 手順① OSPFネイバーが正常か確認
show ip ospf neighbor
● 出力例
Neighbor ID Pri State Dead Time Address Interface
192.0.2.2 1 FULL/DR 00:00:33 10.1.10.2 Gig0/0
192.0.2.3 1 FULL/BDR 00:00:33 10.1.20.2 Gig0/1
● 解釈ポイント
- FULL であればネイバーは正常
- 2WAYやEXSTARTで止まる → ネットワークタイプ不一致・MTU不一致
- ネイバーがいない → Helloが届いていない(ACL/タイマ問題など)
■ 手順② ABRが正しくArea 0に属しているか確認
show ip ospf interface brief
● 出力例
Interface PID Area Type Cost State Nbrs F/C
Gi0/0 1 0 BROADCAST 1 DR 1/1
Gi0/1 1 10 BROADCAST 1 BDR 1/1
チェックポイント
- ABRにはArea 0 と 他エリア両方のインターフェースが必要
- エリア番号を誤っているとArea間経路は絶対に通らない
よくあるミス例
interface Gig0/1
ip ospf 1 area 1 ← 本来は area 0
■ 手順③ Area 0 が分断されていないか確認
OSPFはArea 0 が連続していないとエリア間通信が成立しない仕様です。 (Virtual Link の場合を除く)
show ip ospf
出力例(問題あり)
Backbone area is not contiguous. Please check ABR configuration.
● 対策
- 物理的にArea 0 を接続し直す
- どうしても接続できない場合は virtual-link を使用
virtual-link 設定例
router ospf 1
area 10 virtual-link 192.0.2.1
■ 手順④ 経路(LSA)が生成されているか確認
LSA確認
show ip ospf database
出力例(問題あり)
LS age: 3600
Link State ID: 10.10.10.0
No matching LSA found in Area 0
原因例
- ABRが正しくLSAを別エリアへ伝搬していない
- stub / NSSA 設計を誤った
■ 手順⑤ OSPFフィルタリングを確認
show run | include distribute-list
show run | include filter-list
例:area filter-list による誤フィルタ
area 10 filter-list prefix DENY-ALL in
→ これによりArea 10 → Area 0 への経路が遮断される。
■ 手順⑥ タイマ不一致(Hello / Dead)を確認
show ip ospf interface Gig0/1
よくある問題
- Hello:10 / Dead:40(デフォルト)
- 反対側 Hello:5 / Dead:20(異なる → ネイバー確立不可)
修正例
interface Gig0/1
ip ospf hello-interval 10
ip ospf dead-interval 40
■ 手順⑦ デバッグでHelloやLSAが届いているか確認
最終的に、OSPFパケットのやりとりを確認します。
デバッグコマンド
debug ip ospf adj
debug ip ospf hello
debug ip ospf events
ログ例
OSPF: Mismatched hello parameters from 10.1.10.2
→ Helloタイマ不一致でネイバー不可
■ ケース別:よくある障害と解決パターン
● ケース①:Area番号を間違えていた
症状: ネイバーは成立するが、エリア間ルートが来ない。
interface Gig0/1
ip ospf 1 area 1 ←誤り
解決: area 0 に修正すると即経路復活。
● ケース②:Area 0 分断問題
症状: Area 10 ↔ Area 20 が到達しない。
原因: ABR が両エリアとも Area 0 に接続していなかった。
解決: virtual-link で仮想的に Area 0 を接続 → 経路復旧
■ OSPFエリア間通信チェックリスト(保存版)
- ネイバーが FULL か
- ABRが Area 0 と各エリアに属しているか
- Area 0 が分断されていないか
- LSA が Area 0 に伝搬しているか
- stub / NSSA 設定を誤っていないか
- フィルタリングで経路を消していないか
- Hello / Dead / MTU が一致しているか
- デバッグでパケットが来ているか確認
■ まとめ
OSPFのエリア間経路が通らない原因の多くは、
- ABRの設定誤り(Area番号の間違い)
- Area 0 分断問題
- LSAが伝搬していない設計・設定ミス
- フィルタリングまたはタイマ不一致
この記事の手順どおりにチェックしていけば、 ほぼすべてのOSPFエリア間障害を確実に切り分け可能 です。
ぜひ現場トラブル対応のテンプレートとして活用してください。
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