ネットワーク現場で最も危険な障害の一つが STPループ(スパニングツリー・ループ) です。 ループが発生するとネットワーク全体がほぼ同時に異常を起こし、事業への影響も甚大になります。
本記事では、STPループの典型症状、現場で最優先すべき即時対応、原因の特定方法を「実務者向け」にまとめています。
1. STPループとは何か?
スイッチ間に誤って冗長経路以外のループが形成され、STPがブロックすべきポートを適切に制御できなかった状態です。
結果として、ブロードキャスト・マルチキャストが永遠に回り続け、ネットワークが飽和します。
2. STPループ発生時の代表的な症状
2-1. ネットワーク全体の応答が急激に遅くなる
- ping が超高遅延になる(数秒〜数十秒)
- ping のロスが発生(30〜100%)
2-2. ほぼすべての通信が途絶する
- DHCPが取得できない
- DNS応答が返ってこない
- ファイル共有・VPN がダウンする
2-3. スイッチの CPU が異常上昇
show processes cpu sorted
CPU が 90〜100% に張り付くのが典型症状です。
2-4. ブロードキャストストームが発生
STP ループが引き起こす代表的な事象です。
show interface counters errors
show mac-address-table | include <MACアドレスやキーワード>
MACアドレスが異常な速度で書き換わっている場合は、ほぼループ確定です。
2-5. VLAN 単位で障害が発生するケースもある
VLANごとに STP(PVST+ / RPVST+) が動いている場合、特定 VLAN だけ通信不能になることがあります。
3. 【最重要】STPループ発生時の“即時対応”手順
現場での最優先事項は、ネットワークの正常性をできるだけ早く取り戻すことです。
STEP1:怪しいポートを即時 shutdown する
ループが疑われるスイッチで、トラフィックが異常に増加しているポートを遮断します。
interface GigabitEthernet1/0/24
shutdown
トラフィックが急増しているポートは Syslog や SNMP Trap で検知できる場合もあります。
STEP2:フロアスイッチ/末端スイッチの uplink を確認
- uplink ポートが二重接続されていないか
- 誤配線されていないか
- LANケーブルを張り替えた直後に発生していないか
ユーザー側のハブ(小型スイッチ)でループしているケースが最も多いです。
STEP3:ポートLED(ACT/LNK)が高速点滅しているポートを特定
LED が「爆速点滅」するポートはほぼループポートです。 現場では LED の確認がいちばん早い判断材料になります。
STEP4:上位スイッチの MAC アドレステーブルを確認
show mac address-table dynamic
同じ MAC が複数ポートに出現・高速で書き換わる → ループ確定です。
STEP5:STP 状態を確認(block されていないポートを探す)
show spanning-tree detail
以下のいずれかならループ可能性大:
- 本来 block されるべきポートが FWD(Forwarding)状態
- Root Bridge が意図しないスイッチになっている
4. ループ発生の典型原因と対処策
4-1. 誤配線(最も多い)
LAN 工事後・スイッチ交換後に非常に多いです。
対処:Uplink 配線経路を確認し、該当ポートを shutdown。
4-2. ユーザー側の小型ハブでループ
会議室・デスク回りにある安価ハブでのループが頻発します。
対処:
- ハブを取り外し→問題解消なら原因確定
- ハブを交換または1ポート構成へ変更
4-3. Root Bridge の想定外変更
誤って下位スイッチが Root になってしまうと、STP 全体が乱れ、ループしやすくなります。
spanning-tree vlan 1 root primary
上位機器を確実に Root に固定することが重要。
4-4. BPDU ガード未設定
アクセスポートにユーザーがスイッチを挿すことでループになる場合があります。
interface GigabitEthernet1/0/10
spanning-tree bpduguard enable
BPDU 受信時に自動 shutdown させることで防止できます。
4-5. LAG(EtherChannel)設定ミス
片側 LACP / 片側 static などのミスで、意図しない流れが発生。
対処:両側で LAG 設定が一致しているか確認する。
5. 【再発防止策】STPループを防ぐために必ずすべき設定
① 上位スイッチを確実に Root Bridge に固定する
spanning-tree vlan 1 priority 4096
② 末端ポートに PortFast + BPDU Guard を設定
interface range Gi1/0/1 - 48
spanning-tree portfast
spanning-tree bpduguard enable
現場でも最強のループ防止策です。
③ 余分な冗長配線を排除する
スイッチ交換や工事で使わないケーブルを残すと、のちに挿し直されてループします。
④ VLAN 設計を整理し、トランクの最小化を行う
トランク経路が多いほどループリスクが上がります。
6. まとめ:STP ループ発生時は「遮断 → 特定」の順番が最速
STPループが発生したら、まず以下の順で動くことが重要です。
- 怪しいポートを即 shutdown → ストームを止める
- LED と MAC テーブルでループポートを特定
- STP 状態を確認して原因を確定
- 配線見直し+BPDU Guardなどで再発防止
一度動揺すると判断が遅れますが、この記事の流れを覚えておけば 現場で数分以内に原因特定 → 復旧が可能 になります。



