PoEスイッチの仕組みとトラブル対処法【給電失敗の原因と対策】

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PoE(Power over Ethernet)は、LANケーブルを使って電力供給を行う技術であり、ネットワークカメラ、無線AP、IP電話などの設置を大幅に簡略化します。 しかし、PoE給電がうまく動作しない場合、通信だけできるが電源が入らない、電力不足で接続が不安定になるなど、現場で頻発する問題の原因にもなります。 本記事では、PoEスイッチの仕組み・規格、給電トラブルの原因、実務で有効な対処法を体系的にまとめます。

目次

1. PoEの基本仕組みと規格

● PoEの基本原理

PoEは、LANケーブル(Cat5e以上推奨)を用いて、データ通信と電力供給を同一ケーブルで行う技術です。
給電側(PSE:Power Sourcing Equipment)と受電側(PD:Powered Device)が連携することで、適切な電力量を安全に供給します。

● IEEE規格による違い

規格最大電力(PSE)代表用途
IEEE 802.3af(PoE)15.4WIP電話、小型カメラ
IEEE 802.3at(PoE+)30W無線AP、パンチルトカメラ
IEEE 802.3bt(PoE++ / Type3/4)60W / 90W高性能AP、4Kカメラ、薄型PC など

実務では「機器の必要電力>スイッチのPoE上限」で給電失敗するケースがもっとも多く、規格の理解は欠かせません。

2. PoE給電の動作シーケンス

PoEは次のステップで安全に給電を開始します。

  1. 検出(Detection) 抵抗値からPDを検出する。
  2. 分類(Classification) PDが要求するクラス(電力レンジ)を判定。 例:Class 0〜8(規格により最大90W)
  3. 給電開始(Power On) 適切な電力で給電開始。
  4. 給電維持(Power Maintain) 電力維持信号を監視しながら供給。
  5. 停止(Power Off) ショート、過電流、ケーブル異常などを検知すると停止。

このステップの途中で問題が起こると、電源が入らない/瞬断する/PoE negotiation failed などのエラーが発生します。

3. よくあるPoE給電トラブルと原因

● (1) 電力不足(Budget不足)

PoEスイッチには総電力量(PoE Budget)があり、機器の合計電力が予算を超えると給電が停止します。

例:

  • スイッチPoE Budget:150W
  • AP(25W)×6台 → 150W = すでに限界

新しいカメラを追加した瞬間、どれかが給電停止するケースが現場で非常に多いです。

● (2) ケーブル品質不足

古いCat5や劣化したケーブルは電力損失が大きく、PoEが安定しません。
特に長距離(80m以上)や屋外配線では、電圧降下により機器の起動に必要な電力が届かないことがあります。

● (3) PoEモードの不一致(Mode A / Mode B)

スイッチ・PDによっては給電モードに制限があり、特定のモードしか受け付けないケースがあります。

  • Mode A:データペアで給電(1-2、3-6)
  • Mode B:スパアペアで給電(4-5、7-8)

現在は多くの機器がAuto判定可能ですが、古い機器はMode B専用、あるいはPassive PoE専用など例外が多いです。

● (4) Passive PoE 機器を混在させる誤配線

無線機器(特にバッファロー、Ubiquiti、Mikrotikなど)で発生しやすいトラブル。 Passive PoEは48V固定を常時流すため、IEEE準拠のPoEスイッチに接続すると給電しません。

● (5) PoEインジェクタ併用によるループ・電力衝突

インジェクタ使用時に配線を間違えると「給電路が二重になる」ケースがあり、機器の故障リスクがあります。

4. 実務で使える PoE トラブルシューティング手法

● (1) PoEクラス(Class)を確認する

まずはスイッチのSHOWコマンドで、どのクラスで給電されているかを確認します。

show power inline
show power inline interface gi1/0/10

Classが高い(5〜8)ほど電力要求が多く、Budget不足が起こりやすくなります。

● (2) ケーブルテスト(TDR)を実行

LANケーブルの断線・品質問題はPoEトラブルの主要因です。 CiscoスイッチなどではTDRで診断できます。

test cable-diagnostics tdr interface gi1/0/10
show cable-diagnostics tdr interface gi1/0/10

● (3) 距離を短くする、または太いケーブルへ変更

PoEは距離が長いほど電圧降下が起こるため、該当ケーブルを短縮、またはCat6/Cat6Aへ交換すると改善します。

● (4) 電源再交渉(PoEリセット)が有効な場合

power inline never
power inline auto

これによりPoEの検出・分類が再実行され、起動に成功することがあります。

● (5) PoEポート優先度の確認

Budget不足時、優先度の低いポートから給電が停止します。

power inline port priority high | medium | low

カメラ・APは必ずhighに設定すべきです。

● (6) Passive PoE の混在禁止

IEEE規格(af/at/bt)とPassive PoEは絶対に混在させないこと。 疑わしい場合は、間にインジェクタを入れて検証すると原因が切り分けできます。

5. PoE設計で押さえるべきポイント(実務向け)

● (1) 必要電力 × 1.2倍 を予算にする

PoEは実際に必要な電力が想定より高くなることが多いため、 平均消費電力の120%を設計値として計算するのが鉄板です。

● (2) 余裕あるPoE Budgetを持つスイッチを採用する

特にAPや4Kカメラが多い場合、PoE++(802.3bt)対応スイッチを推奨。

● (3) 冗長給電(RPS / Redundant Power Supply)の併用

PoEスイッチがシャットダウンすると、監視カメラ・無線APが一斉停止するため、 現場ではRPS(冗長電源)必須とすべきです。

● (4) ケーブル長は80m以内に抑える

100mギリギリはPoEでは不安定。80m以内の設計が最適。

6. 設定例(Cisco Catalyst)

● PoEの基本設定

interface GigabitEthernet1/0/10
 description AP
 power inline auto
 power inline port priority high

● PoE給電の上限を設定する(過電流防止)

power inline consumption 25000

● 給電状態の確認

show power inline
show power inline gig1/0/10 detail

7. まとめ

PoEはネットワークカメラや無線APの導入を大幅に簡略化する一方、電力不足、ケーブル品質、規格の不一致などによりトラブルが発生しやすい領域です。 給電トラブルは原因をつかめば確実に解決できますので、以下のポイントを押さえておくことが重要です。

  • PoE規格(af/at/bt)の電力差を理解する
  • PoE Budget の余裕は必須(120%推奨)
  • ケーブル品質が給電の安定性に直結
  • PoEクラス・優先度の設定は実務で必須
  • Passive PoE機器とは混在させない

正しく理解し設計することで、PoEネットワークは長期間安定して動作し、現場の運用トラブルを大幅に削減できます。

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