ネットワークの最下層である物理層(Physical Layer)は、データを「ビット(0と1)」として実際に伝送する役割を担います。 ケーブルの種類や規格を理解することは、通信トラブルの切り分け・配線設計・機器接続の基礎となる非常に重要な知識です。
1. 物理層とは?
OSI参照モデルの最下層に位置し、「電気信号」「光信号」などを用いて実際にデータを伝送します。 例えばLANケーブル(UTP)や光ファイバーケーブルは、この物理層で使われる媒体です。
主な役割:
- ビット信号の送受信(電気的・光学的変換)
- コネクタ形状やピン配置(RJ45など)の規定
- 通信速度や距離の規格定義(例:Cat5eで1000Mbps、100mまで)
2. LANケーブルの種類:UTPとSTP
UTPケーブル(Unshielded Twisted Pair)
最も一般的なLANケーブル。各ペア線をツイスト(ねじり)してノイズの影響を低減しています。 シールド(外部カバー)はなく、安価で扱いやすいのが特徴です。
- メリット:安価・軽量・取り回しが容易
- デメリット:電磁ノイズ(EMI)の影響を受けやすい
- 用途:オフィス・家庭内ネットワークなど一般環境
STPケーブル(Shielded Twisted Pair)
各ペア線または全体を金属シールドで覆い、外部ノイズを遮断するタイプ。 電磁波や高周波ノイズが多い環境(工場、サーバルーム)で使用されます。
- メリット:ノイズ耐性が高く安定した通信が可能
- デメリット:高価・取り扱いがやや難しい・接地(アース)処理が必要
ケーブルカテゴリ(Cat)の違い
| カテゴリ | 通信速度 | 帯域幅 | 最大距離 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| Cat5e | 1Gbps | 100MHz | 100m | 一般的なLAN環境 |
| Cat6 | 1Gbps〜10Gbps(短距離) | 250MHz | 100m | 企業ネットワーク |
| Cat6A | 10Gbps | 500MHz | 100m | サーバルームなど |
| Cat7 | 10Gbps | 600MHz〜 | 100m | 高品質配線環境 |
近年では、Cat6A以上のケーブルが10Gbps通信対応として企業ネットワークで主流になりつつあります。
3. ストレートケーブルとクロスケーブル
ストレートケーブル
送信ピンと受信ピンが同じ位置で結線されているケーブルです。 一般的に「異なる種類の機器」を接続する際に使用します。
- PC ⇔ スイッチ
- ルータ ⇔ スイッチ
- ハブ ⇔ サーバ
クロスケーブル
送信ピンと受信ピンが交差するように結線されたケーブルです。 「同種の機器同士」を接続するときに使用します。
- PC ⇔ PC
- スイッチ ⇔ スイッチ
- ルータ ⇔ ルータ
Auto MDI/MDI-X 機能
最近の機器はこの自動認識機能により、クロス/ストレートどちらでも自動的に判別して通信できます。 そのため、現代ではストレートケーブルを1種類だけ用意すればよいケースが大半です。
4. 光ファイバーケーブルの基礎
光信号でデータを送受信するケーブル。長距離通信や高帯域通信で主に使用されます。
光ファイバーの種類
| 種類 | コア径 | 通信距離 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| マルチモード(MMF) | 50μm / 62.5μm | 〜2km程度 | LAN内・データセンタ向け |
| シングルモード(SMF) | 9μm | 数十km〜数百km | 通信事業者やWAN回線向け |
光ファイバーの特徴
- ノイズに強く、高速・長距離通信が可能
- 電気的絶縁性が高く、雷サージなどの影響を受けにくい
- 折り曲げに弱く、施工には慎重な取り扱いが必要
主なコネクタ形状
- SCコネクタ:一般的な四角形タイプ(光回線など)
- LCコネクタ:小型でスイッチ間接続に多い
- STコネクタ:丸型で古い設備で利用されることがある
5. ケーブル診断とトラブル対処のポイント
- リンクアップしない:ピン折れ、断線、コネクタ不良を疑う。
- 通信速度が遅い:Cat5など古いケーブルが混在していないか確認。
- パケットロスや不安定:ノイズ源(電源ケーブル、モーター)と近接していないか。
- 光通信でリンクしない:送受信(TX/RX)の差込向き、清掃状態を確認。
6. まとめ
物理層の理解は、ネットワークトラブルの根本原因を突き止める上で欠かせません。 ケーブルの種類(UTP/STP)、結線方式(ストレート/クロス)、伝送媒体(銅線/光ファイバー)を正しく選定し、 機器仕様と環境に適した構成を設計することが安定した通信の第一歩です。
特にトラブル対応では「ケーブルが正しく接続されているか」「カテゴリが対応しているか」を最初に確認する習慣を身につけましょう。
