ネットワークが混雑したとき、音声通話が途切れたり、動画がカクついた経験はありませんか? それを防ぐ仕組みがQoS(Quality of Service)=通信品質の制御です。 この記事では、QoSの概念から、分類・キューイング・帯域制御の実装方法までを体系的に解説します。
1. QoSとは何か?
QoS(Quality of Service)とは、ネットワーク上の通信品質を保証・制御する仕組みのことです。 特定の通信に優先順位を付けたり、帯域を制限することで、ネットワーク全体の安定運用を実現します。
◆ QoSの目的
- 音声・動画などリアルタイム通信を優先的に通す
- バックアップや大容量転送による帯域圧迫を防止
- 重要アプリケーション(業務システムなど)の通信を安定化
つまりQoSは、「通信を公平に、または戦略的に扱う仕組み」です。
2. QoSが必要になるシーン
QoSは、特に以下のようなケースで必要になります。
| 利用シーン | 課題 | QoSでの対策 |
|---|---|---|
| VoIP(IP電話) | 音声遅延・途切れが発生 | 音声トラフィックを最優先で転送 |
| オンライン会議 / 動画配信 | 映像の乱れ、同期ずれ | リアルタイム通信を優先し遅延を最小化 |
| バックアップ / ファイル転送 | 大量データ転送で他通信を圧迫 | 転送速度を制限し、他通信の帯域を確保 |
3. QoSの基本構成要素
QoSは大きく分けて、以下の3段階で構成されます。
- 分類(Classification):どの通信をどう扱うかを識別
- マーキング(Marking):通信に優先度を付与(DSCPやCoS)
- キューイングとスケジューリング(Queuing / Scheduling):優先度に応じて転送制御
◆ 全体のイメージ図
┌────────────┐
│ ネットワークトラフィック │
└────────────┘
│
▼
┌────────────┐
│ ①分類:パケットを識別(例:音声・動画)│
└────────────┘
│
▼
┌────────────┐
│ ②マーキング:優先度タグ付け(DSCPなど)│
└────────────┘
│
▼
┌────────────┐
│ ③キューイング:優先順位に応じた転送制御 │
└────────────┘
4. QoSの主要技術と仕組み
① 分類(Classification)
通信を識別し、優先度を決める最初のステップです。識別方法には以下があります。
- 送信元 / 宛先 IP アドレス
- ポート番号(例:TCP 80, UDP 5060)
- プロトコル(HTTP, VoIPなど)
- VLAN ID や DSCP 値
Cisco機器では、class-mapを使って分類します。
Router(config)# class-map match-any VOICE
Router(config-cmap)# match protocol rtp
Router(config-cmap)# match dscp ef
② マーキング(Marking)
分類されたパケットに「優先度のタグ」を付けます。主なマーキング方法は以下の通りです。
| 方式 | 説明 |
|---|---|
| DSCP(DiffServ Code Point) | IPヘッダに6ビットで優先度を設定(L3層) |
| CoS(Class of Service) | Ethernetフレームの優先ビットを使用(L2層) |
たとえば、VoIPではDSCP値46(EF: Expedited Forwarding)がよく使用されます。
Router(config)# policy-map MARK-VOICE
Router(config-pmap)# class VOICE
Router(config-pmap-c)# set dscp ef
③ キューイング(Queuing)とスケジューリング
パケットをバッファ(キュー)に格納し、優先度に応じて送信順序を制御します。 主な方式は以下の通りです。
| 方式 | 特徴 |
|---|---|
| FIFO(First In First Out) | 順番に処理。単純だが制御ができない。 |
| PQ(Priority Queuing) | 高優先度トラフィックを最優先で送信。 |
| CBWFQ(Class-Based Weighted Fair Queuing) | クラスごとに帯域を公平に分配。 |
| LLQ(Low Latency Queuing) | リアルタイム通信に専用帯域を確保(PQ+CBWFQ)。 |
音声や動画にはLLQが推奨されます。
Router(config)# policy-map QOS-POLICY
Router(config-pmap)# class VOICE
Router(config-pmap-c)# priority 128 # 音声用に専用帯域確保
Router(config-pmap)# class BULK
Router(config-pmap-c)# bandwidth 512 # 大量転送は制限
5. 帯域制御(Traffic Policing / Shaping)
QoSでは、トラフィックの量を直接制御することも可能です。
◆ Policing(ポリシング)
設定した上限を超えたパケットを破棄(Drop)またはマーク変更します。 主にISPや上位ルータ側で使用されます。
Router(config)# policy-map LIMIT-BULK
Router(config-pmap)# class BULK
Router(config-pmap-c)# police 1000000 8000 exceed-action drop
◆ Shaping(シェーピング)
トラフィックをバッファに一時的にためて、一定速度で送信します。 主に送信側(LAN → WAN方向)で利用されます。
Router(config)# interface Serial0/0
Router(config-if)# traffic-shape rate 512000
この設定では、512kbpsに通信速度を制限しつつ、バーストを吸収します。
6. QoS設定の流れ(Ciscoルータ例)
# 1. トラフィック分類
class-map match-any VOICE
match protocol rtp
# 2. ポリシー作成(優先帯域設定)
policy-map QOS-POLICY
class VOICE
priority 128
class class-default
fair-queue
# 3. インターフェースに適用
interface GigabitEthernet0/0
service-policy output QOS-POLICY
これで、音声通信を優先的に処理するQoSポリシーが適用されます。
7. QoSを検証する方法
設定後は、以下のコマンドで動作確認を行います。
show policy-map interface
show class-map
show mls qos interface
これらで、各トラフィッククラスのパケット数やドロップ状況を確認できます。
8. まとめ:QoSはネットワーク安定化の要
- QoSは通信品質を保証するための仕組み
- 分類 → マーキング → キュー制御 の3段階で動作
- LLQやCBWFQなどを用途に応じて使い分ける
- Policingは速度超過を制限、Shapingは送信速度を平滑化
QoSは単なる「速度制御」ではなく、ネットワークの安定性と公平性を保つ技術です。 業務アプリ、VoIP、VPNなど、あらゆる通信の品質を守るために欠かせない基礎知識として理解しておきましょう。

